2024年12月22日( 日 )

日本発の「折紙工学」産業化に向けて離陸へ(4)

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明治大学研究・知財戦略機構特任教授 萩原 一郎 氏

 折り紙を知らない人はいないが、「折紙工学」のことを知っている人はどれだけいるだろうか。折紙工学は実は日本発の研究分野で、紙おむつから宇宙ステーションのアンテナまで、さまざまな製品で折り紙の特性が生かされている。折紙工学の第一人者が、明治大学研究・知財戦略機構特任教授/先端数理科学インスティテュート&自動運転社会総合研究所所員、東京工業大学名誉教授の萩原一郎氏である。荻原氏が目指すのが、大量生産を可能とする産業化だ。

東工大での研究、みえてきた産業化

 萩原氏は1996年、東京工業大学教授に転じた。日産時代はアメリカの安全基準をクリアすることに精一杯だったが、「外に出てみて振り返って考えたときに、改めて衝突について、あれでよかったのかと考えるようになった」という。

 当時はアメリカの厳しい規制条件を何とかクリアした。しかし、クリアしたのはいいのだが、衝突直後のピーク荷重が高いため、乗員への危害が大きい可能性があるからだ。

 ピーク荷重が高くならず、ほとんどピークのこないものがあるのではないか、それは折紙構造ではないかと考えるようになった。

 そこで、折紙構造について文献を探してみたが、なかなか見つからなかった。そんなときに出会ったのが、折紙工学を提唱した野島氏の論文である。2000年ごろ、野島氏は次々と論文を発表していた。萩原氏は、野島氏が提唱した折紙工学にすぐに呼応した。

 そのなかの論文の1つを研究すると、確かに考えていた通りの非常に良い特性をもっていることがわかった。しかし、ハイドロフォーミングと呼ばれる加工技術を使う必要があり、この加工技術では装置が大きくなり、コストも高くなった。

 自動車メーカーから共同研究の申し出を受けたが、高コストがネックになり、結局2007年採用は正式に見送られた。しかし、それから10年経った2017年、低コストで製造する方法の開発に萩原氏は成功した。これによって、自動車メーカーから採用される可能性も高くなってきたという。

 折紙工学の産業化を目指す萩原氏は、「英国のエンジニアがハニカムコアを数兆円産業にした。我々は、これを10倍くらいにしなければいけない。低コストで製造する新しい方法がいずれ採用されるようになっていくだろう。そうすれば数十兆円産業が見えてくる」と期待している。

米・中で高い関心、日本で研究者増に期待

 折紙工学は日本から始まった研究分野だが、アメリカや中国での関心も高い。2012年に米国立科学財団が研究テーマに対して補助金を設けたことも後押しし、折紙工学の研究者が急増した。2014年に東京で開催された国際会議では、日本開催にもかかわらず、登録者数が日本人と米国人でほぼ拮抗していた。中国では、航空宇宙分野や防衛分野にどのように生かせるかといった観点から、政府を中心に折紙工学の研究を促進している。

 日本では、折紙工学の拠点として、数理科学の3大拠点といわれている明治大学先端数理科学インスティテュート、京都大学数理解析研究所、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所がある。

 研究者の数はアメリカや中国の方が多いといわれているが、日本でも研究者がこれから増えていくとみられている。というのも、萩原氏の研究が自動車メーカーで採用されることになれば、一気に産業化の実現が見えてくるからだ。萩原氏は「ラグビー日本代表の活躍で競技人口が増えていくのと同じで、研究を志す若者も増えていくだろう」と話す。

 2002年にスタートした比較的新しい学術分野である折紙工学は、萩原氏の目指す産業化に向けて今、その可能性が大きく広がろうとしている。    

(了)
【本城 優作】

<プロフィール>
萩原 一郎(はぎわら・いちろう)

 京都大学工学研究科数理工学専攻修士課程修了。1972年4月日産自動車(株)に入社、総合研究所に勤務。東京工業大学工学部機械科学科教授、上海交通大学客員教授兼同大学騒音・振動・ハーシュネス(NVH)国家重点研究所顧問教授、東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻教授。2012年4月から明治大学研究・知財戦略機構特任教授/先端数理科学インスティテュート&自動運転社会総合研究所所員、東京工業大学名誉教授、工学博士。
 日本応用数理学会名誉会長、日本機械学会フェロー、米国機械学会・自動車技術会・日本シミュレーション学会フェロー。
 【受賞】日本応用数理学会業績賞「計算科学・数理科学援用折紙工学の創設と展開」ほか多数。
 【著書】『折紙の数理とその応用』(共著、共立出版)など。

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