2024年11月30日( 土 )

2016年発達障害者支援法が改正 雇用障害者数、過去最高を更新(1)

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 障害者の職業の安定を図る「障害者雇用促進法」が改正され、障害者雇用率(法定雇用率)の引き上げと、雇用対象となる障害者の範囲に「発達障害を含む精神障害者」が新たに加わった。厚生労働省が発表した2018年度の民間企業による障害者の雇用状況は、雇用障害者数・実雇用率ともに過去最高を更新。なかでも発達障害を含む精神障害者の雇用数が急増している。企業は発達障害者の雇用にどう向き合えばいいのか。

発達障害者の支援は社会の責任で行う

 発達障害者の概念が一般社会で理解されるようになったのは、「発達障害者支援法」が施行した2005年以降であろう。

 同法は発達障害者の早期発見・早期療養、学校生活の支援、就労の支援、発達障害者支援センターの設置などを定めることで、発達障害者が暮らしやすい社会へと大きく変化し始めた。

 発達障害者支援の追い風となったのは、2006年12月の国連総会で採択された、あらゆる障害者の尊厳と権利を保障するための取り組みを促す「障害者権利条約」(2008年5月に発効)である。日本政府は2014年1月に批准し、同年2月に効力が発生した。

 発達障害の臨床に携わる第一人者で、どんぐり発達クリニック院長・宮尾益知氏はいう。

 「障害者支援の機運が高まったことで、2016年に発達障害者支援法の改正が行われました。その大きなポイントは、『発達障害者への支援は社会的障壁を除去すること』という基本理想が追加されたことです。これは『発達障害者の支援は保護者だけでなく、社会の責任でやりましょう』と定義されたことを意味します。発達障害者がうまく適応できないのは、まわりの工夫や配慮が足りないからで、それを社会の責任として解決していこうと法律に明記されたことで、今後社会のさらなる変化が期待されます」

「障害者雇用促進法」で雇用と能力発揮を促す

 1960年に制定された「障害者雇用促進法」は、一定の規模を超える企業や国・地方公共団体などの事業主に対し、雇用する労働者のうち、障害のある人の割合が一定の率以上になるよう義務づける「障害者雇用率制度(法定雇用率)」を定めている。

 宮尾氏が続ける。

 「施行当初は、身体障害者の雇用を事業主の義務とするものでしたが、その後知的障害者も適用対象となり、2006年には精神障害者(精神障害者保険福祉手帳所有者)も対象として義務づけるという経過をたどっています。それ以降も、障害者雇用をとりまく実態に合わせた改正が行われ、たとえば2008年の改正は、主に中小企業における障害者雇用の促進を掲げたものでした。当時、障害者の就労意欲が高まりを見せ、求職件数も増加していたが、地域の身近な雇用の場である中小企業での障害者雇用は低下傾向にありました」

 こうした実態を受け、2015年4月から「障害者雇用納付金制度」の適用対象範囲が、常時雇用する労働者数が100人を超え200人以下の中小企業にも拡大された。

 障害者雇用納付金制度とは、法定雇用率が未達成の事業所から納付金を徴収し、その納付金を財源として法定雇用率を達成している事業所に調整金や報奨金、助成金を支給するという制度である。

 なぜなら、事業主が障害者を雇用するには、バリアフリーなど作業施設や設備の改善などの経済的な負担をともなう。そのため、法定雇用率を超えて雇用義務を守っている事業主と、そうでない事業主の間に経済的なアンバランスが生まれる。

 そうしたアンバランスを調整するために設けられているのが、障害者雇用納付金制度である。法定雇用率を満たさない事業主は、不足している人数に応じて1人につき月額50,000円の障害者雇用納付金が徴収され、法定雇用率を上回る障害者を雇用した事業主は、1人につき月額27,000円の調整金が支給される。さらに一週間の労働時間が20時間以上30時間未満の障害者も、雇用義務の対象としてカウントされることになった。

(つづく)
【古木 杜恵】

<プロフィール>
宮尾 益知(みやお・ますとも)

 東京都生まれ。徳島大学医学部卒業。東京大学医学部小児科、自治医科大学小児科学教室、ハーバード大学神経科、国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科などを経て、2014年にどんぐり発達クリニックを開院。
『発達障害の基礎知識』『職場の発達障害』など多くの著書がある。専門は発達行動小児科学、小児精神神経学、神経生理学、発達障害の臨床経験が豊富。

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