ユニゾ、上場企業初、従業員による買収が成立~策士、小崎社長が「好んで事をたくらんだ」大立ち回りの顛末(前)
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策士とは「策略がたくみな人。好んで事をたくらむ」(広辞苑)ことをいう。ホテル・不動産事業のユニゾホールディングスの小崎哲資社長は、当代きっての策士である。上場会社で初の従業員による買収を成立させた。常人の思いおよばない、奇抜なはかりごとを弄する奇策が、策士の策士たるゆえん。260日におよんだ買収合戦を振り返ってみよう。
従業員による非公開化で決着
ユニゾホールディングス(以下・ユニゾと略)は4月3日、従業員と米投資ファンドのローンスターが共同で設立したチトセア投資によるTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表した。株主から86.55%にあたる応募があった。応募株式の買収額は1,777億円で、全株取得による最終的な総額は約2,050億円になる。
買い付け主体であるチトセア投資はユニゾ従業員が73%、ローンスターが27%を出資。買い付け資金はローンスターが出した。6月上旬までに開催予定の臨時株主総会を経て上場廃止となる。従業員による買収(エンプロイー・バイアウト=EBO)の成立は上場企業では初めて。
併せて、ユニゾの小崎哲資社長をはじめグループ会社で取締役や執行役員などを務める計43人が6月下旬の定時株主総会の終結をもって退任すると発表した。TOB合戦でファンドと渡り合ってきた小崎社長が、本邦初公開となる従業員による買収を成立させるや、社長以下の役員全員がきっぱり辞めるという。これまた、常人の思いがおよばない奇策だ。ユニゾの非上場化は、小崎社長が推進してきた、親会社みずほフィナンシャルグループからの離脱の総仕上げを意味する。
TOB合戦で株価は3倍に上昇
TOB合戦を、株価引き上げ作戦とみれば、凡人にもわかりやすい。
ユニゾをめぐるTOB合戦が始まったのは、19年7月に遡る。旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)が敵対的TOBを仕掛けたのがきっかけだ。TOB価格は3,100円。HISのTOBは、日本では珍しい事業会社による敵対的買収だ。小崎社長が率いるユニゾ側はHISに対抗するため、10を超す買い手候補と接触。入札の末、友好的な買い手であるホワイトナイト(白馬の騎士)に、ソフトバンクグループ傘下の米投資会社フォートレス・インベストメント・グループが友好的TOBを実施。TOB価格は4,000円。HISのTOBが成立せず、HISを撃退した。
米不動産ファンドのブラックストーングループが1株5,000円とより高値のTOBを提案すると、小崎社長はフォートレスに価格引き上げを要求し、応じないと見るやフォートレスをホワイトナイトの座から引きずり下ろした。友好的な買い手に招いたフォートレスを一転して切り捨てたのは異例だ。
小崎社長は、友好的TOBを提案したブラックストーンとの交渉でも、首を縦に振らなかった。ブラックストーンは最も高い買い付け価格を示し続けたが、ユニゾ経営陣の同意が条件だったためTOBをしなかった。
小崎社長が最終的に繰り出した奇策が、日本では前例のない、従業員による買収(EBO)。TOBはユニゾ従業員と米投資ファンドのローンスターが設立したチトセア投資が1株6,000円で実施した。その後のフォートレスとブラックストーンの価格引き上げにもきっちり対抗し、逃げ切った。
一連の騒動でユニゾの株価は急騰。HISが7月TOBを公表する直前は1,990円だったが、3倍強の6,000円に上昇した。鼻づらを引きずり回された投資ファンドは恨み骨髄だが、一般株主には3倍のリターンをもたらした功労者。小崎社長がM&A史に残る強烈なインパクトを残したのは間違いない。
(つづく)
【森村 和男】
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