新旧・伝説的相場師を追い詰めた監視委・佐々木事務局長(前)
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2015年の証券市場の掉尾(ちょうび)を飾ったのは、伝説的な2人の相場師の相場操縦事件である。1人は「兜町の風雲児」と呼ばれた加藤暠(あきら)容疑者(74)。もう1人は「物言う株主」として一世を風靡した旧・村上ファンドの村上世彰(よしあき)元代表(56)。新旧の2人のスター相場師がターゲットになった背景に、1人の男の存在が浮かび上がる。証券取引等監視委員会の新事務局長の佐々木清隆氏(54)である。
元「兜町の風雲児」は風説の流布で逮捕証券取引等監視委員会の告発を受けた東京地検特捜部は11月17日、仕手グループ「般若の会」元代表の加藤容疑者を金融商品取引法違反(相場操縦)の容疑で逮捕した。
続いて12月7日、株価を変動させる目的で根拠のない情報を流したとして、同法違反(風説の流布、偽計)で、加藤暠容疑者と、長男で大阪大学大学院助教の恭(たかし)容疑者(36)を再逮捕した。
各メディアの報道によると、2人は2011年11~12月、暠容疑者が主宰する団体「般若の会」の株式情報サイトのコラムに、大証一部上場(当時)の化学会社、新日本理化の株価が12年3月に1,300円まで上昇する書き込みをした。しかし、株価が800円前後で停滞したため、12年2~3月、大量の買い注文を入れるなどして相場を操作。株価はコラムの予言通り1,297円まで釣り上げた。
2人は12年4月、新日本理化株の上昇について、コラムに「まさしく天の恩恵」などと記載。専門商社明和産業の株について「大相場に発展する可能性」と書き込んだ。書き込み前は409円だった明和産業の株価は4月下旬に888円に上昇。2人は事前に購入していた株を売り抜け、多額の利益を得た。
産業経済新聞(12月8日付)は具体的な数字を書いている。「関係者によると、加藤容疑者らは新日本理化株の取引では十数億円の損失をだしていたが、その後の明和産業など3銘柄の取引では、他の投資家から買い注文を出させて保有株を売り抜けることに成功。最終的に約60億円の利益を得ていた」と報じた。
新日本理化株を撒き餌にして、明和産業など3銘柄の買いを誘った。“エビで鯛を釣る”手法と言えそうだ。これが風説の流布容疑に問われた。元「物言う株主」は監視委が強制調査
証券取引等監視委員会は11月25日、金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いで、旧・村上ファンドの村上世彰元代表の関係先を強制調査した。
各メディアの報道によると、相場操縦の疑いがあるのは、東証一部上場のアパレル大手TSIホールディングス(東京都港区)の株式。村上元代表らは昨年6~7月に大量の売り注文を出し、TSIの株価を意図的に下げた疑い。
村上元代表と関係がある投資会社レノ(同)は、証券会社などからTSI株を借りて売却し、株価が下がった時に買い戻すことで、その差額を利益としていた。
これとは別に、村上代表と関係がある複数の関係会社が、保有するTSI株を売却する側と、株価下落後に同株を買う側に分かれ、最終的に株価の回復時に売却していた。利益は総額数千万円に上るという。
レノは旧村上ファンド出身者が運営している投資会社で、村上氏の長女の絢(あや)氏(27)が運営する投資会社C&Iホールディングスと同じビルに事務所がある。
C&Iの絢氏は今年7月、東証一部上場の電子部品商社、黒田電気(東京都品川区)に、村上世彰氏ら4人の社外取締役の選任を求める臨時株主総会開催の株主提案をして、「物言う株主」として初デビューした(株主提案は否決)。
監視委の強制調査を受けた村上氏は12月4日、「関係会社でTSI株を多数保有しており、株価を下げる意図も動機もない」とする見解を自身のホームページで明らかにした。
相場操縦で村上氏らが用いたとされる証券会社などから株式を借りて売却し、値下がりした後に買い戻す「空売り」という手法について、「空売りは株式市場では古くから一般的に使われており、証券取引所もこれも認めている」と反論した。
監視委はなぜ、新旧の著名な相場師をターゲットにしたのか。そこには1人の人物の名前が浮かび上がる――。(つづく)
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