2024年12月27日( 金 )

孫正義氏の究極の選択~ソフトバンクグループの株式の非公開化はあるか?(2)

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 投資会社ソフトバンクグループ(株)(SBG)の「株式非公開化」観測が駆けめぐる。株式非公開説は今回が初めてではなく、危機に直面すると噴出してきた。孫正義会長兼社長は2009年と15年にも、株式非公開化を検討した。今年は「3度目の正直」となるか。

コロナ・ショックでSBG株の時価総額6.8兆円消失

 新型コロナウイルスの世界的感染拡大が、市場を直撃した。SBGの投資ファンドは、投資先の株価の変動が業績を左右する。新型コロナの影響で株式市場は大荒れとなり、株価が急落。投資先に多い宿泊や不動産の市場でも需要が激減した。こうした影響から、投資先の価値を急落させた。

 3月に入って、SBGの株価は連日下落して、その差が一段と広がり、孫社長は「株価対策」に動き出した。
 最初の手は、3月13日に発表した5,000億円を条件とする自社株買いだ。ちょうどSBGに出資している「物いう株主」の米ファンド、エリオット・マネジメントが最大2兆円の自社株買いを要求していたため、SBGがそれに応じるかたちになった。

 だが、その狙いは裏目に出た。米格付け会社のS&Pグローバル・レーティングが17日、自社株買い発表でSBGの財務の健全性に疑義が生じたとして、格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。自社株買いは株価の上昇をもたらすのが通常。ところが、市場に安心感を与えるどころか、これまでの財務内容に対する懸念がかえって高まり、株価の下落に拍車がかかった。

 3月19日にはSBGの株価は3年8カ月ぶりの安値に沈んだ。時価総額は5.4兆円と6兆円を割り込んだ。高値であった2月12日の12.2兆円から6.8兆円が消えた。

 通信子会社ソフトバンクの時価総額(7兆円)を下回るレベルで、アリババ、スプリント、アームの株価は「ゼロ」と評価されたに等しい。SBG内部に激震が走った。こうして究極の策として浮上したのが株式の非公開化策だった。

4.5兆円の保有株の売却計画を実行

 SBGでは株式の非公開化策は見送られたが、その代わりに資産売却計画が打ち出された。SBGは3月23日、総額4.5兆円の保有株売却と計2.5兆円の自社株買いを発表した。負債を削減し、自社株買いで株主に還元する一石二鳥の策で、株価の引き上げを狙ったものだ。

 格付け会社のムーディーズ・ジャパン(株)は3月25日、SBGの格付けをBa1からBa3へ一気に2段階引き下げた。Ba3は、投機的と判断される格付けで、投資家が社債購入を敬遠するなど、資金調達に悪影響をおよぼす。

 ムーディーズは、「評価の高い上場株式の一部を売却していった場合、ポートフォリオの資産価値と信用力は悪化する可能性がある。(中略)残り投資ポートフォリオ全体の質と価値は低くなる可能性がある」として、格下げを行った。

 平たくいえば、優良株を売却すればボロ株しか残らないというわけだ。
 SBGは、株価を押し上げる策として打ち出したのに、ムーディーズはSBGの格付けを2段階引き下げたのだ。SBGは激怒。格下げに反発し、格付け依頼を取り下げる異例の対応をした。

 ムーディーズの懸念は無理からぬところがある。通信社のブルームバーグ(3月24日付)は、関係者の話としてSBGの売却する銘柄を報じた。

「中国の電子商取引会社アリババ・グループ・ホールディングスの株式約140億ドル(約1兆5,000億円)相当の売却を計画している。(中略)国内通信子会社ソフトバンクの一部株式や、米スプリントの持ち分の一部をTモバイルUSとの合併完了後に売却することも検討している」

 孫氏が過去にアリババに投資した20億円が、アリババの上場で5兆円の時価総額に大化けした。アリババは孫氏の投資人生の「一丁目一番地」であり、SBGの宝庫だった。一部とはいえ、アリババ株を売却する。孫氏が、いかに追いつめられていたかを示している。

 売れるものは、アリババのような優良資産に限られる。手元に残るのは、売りたくても売れないガラクタばかりになりかねない。

(つづく)

【森村和男】

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