ドンキ・大原孝治前社長、株購入の不正推奨疑惑で判明~突然の退任劇の真相(前)
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「ドンキ前社長、株購入を知人へ不正推奨疑惑」の報道が飛び込んできた。旧(株)ドンキホーテホールディングス(以下、ドンキHD)の大原孝治前社長が2019年9月に突然、退任したことについて、理由が明らかにされていなかったが、今回の報道でこの疑惑が退任の理由であったのかと得心がいった。
ドンキHD株をめぐる疑惑報道
各メディアは10月29日、旧ドンキHD・大原孝治前社長の不正疑惑を一斉に下記のように報じた。
流通大手の旧ユニー・ファミリーマートホールディングス(株)(以下、ユニー・ファミマHD、現(株)ファミリーマート)とディスカウントストア大手の旧ドンキHD(現(株)パン・パシフィック・インターナショナルHD)との間で行われた株式公開買い付け(TOB)をめぐり、ドンキHDの前社長が知人らに自社株購入を不正に勧めた疑いが明らかになった。
証券取引等監視委員会は、ドンキの前社長がTOB公表前、知人の男性にドンキHD株の購入を推奨し、公表後に知人らが多額の利益が得た疑いがあるとして、昨年11月と今夏、関係先を強制調査。検察当局への告発を視野に調査を進めている。
両社は2017年8月に資本・業務提携で合意。18年10月11日、ユニー・ファミマHDがTOBを実施してドンキHD株を最大20.17%取得してグループ会社化し、傘下の総合スーパー・ユニー(株)の全株式をドンキHDに売却すると発表した。
公表前の18年9~10月上旬に5,000円台で推移していたドンキHD株は公表後、6,000円台後半まで上昇。ドンキHD前社長は両社の連携の公表前に知人にドンキHD株の購入を勧め、同社株は9月上旬ごろから知人や親族の名義で買い付けられていた。知人らは公表後の売却で、多額の利益を得たという疑惑だ。
ユニー・ファミマHDは1株6,600円でドンキHD株のTOBを実施したが、買い付け最終日である18年12月19日の終値は7,110円と買い付け価格を大きく上回った。応募する株主がほとんどいなかったため0.02%しか取得できず不調に終わり、TOBは仕切り直しとなった。
メディアはドンキHDの前社長として報道し、その実名を記載していない。しかし、前社長とは大原孝治氏、その人である。
ドンキ前社長、大原孝治氏の突然の退任劇
ドンキHDは、ユニー・ファミマHDとの提携で大きな動きがあった。ドンキHDは19年1月31日、臨時株主総会を開き、翌2月1日付で「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)」への社名変更と、創業者の安田隆夫氏の取締役復帰を承認した。ユニー・ファミマHDとの連携で海外進出を加速させるためである。
PPIHは19年9月25日、社名変更後、初の定時株主総会を開催し、新体制がスタートした。コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の吉田直樹氏が社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。大原社長兼CEOは退任し、米国事業の統括会社の社長に専念するということだった。
大原氏は社長交代を発表した19年8月の決算説明会で、「米国事業に打ち込み、大輪の花を咲かせたいというロマンとモチベーションを前から持っていた」と語り、米国法人の社長職に専念する考えを示していた。
ところが12月6日、PPIHは「大原氏は9月25日をもってグループすべての役職を辞任し、グループすべての役職から離れた」と発表した。2カ月以上経って、株主総会の日に退任していたと公表したのであり、その経緯は不可解であった。
大原氏は13年に社長に就任して以降、19年6月期までの6年間でPPIHの売上を2倍強、営業利益を2倍弱にした功労者である。順当に行けば会長か副会長になってもおかしくない人物だ。社長を退任した彼は、米国事業を統括するグループ会社の社長に就任するはずだったが、実際は退職していたとあり、大きな波紋を呼んだ。
PPIHは「本人の申し出によるもの」としているが、この説明を額面通り受け取る向きは皆無だ。第一線に復帰した創業者の安田氏との確執が取り沙汰され、株式市場に出回ったのは、下記の説だった。
完全子会社化したユニーの店舗をドン・キホーテに業態転換するにあたって、大原氏は当初5年で100店の転換と言っていた。ところが途中で、3年で100店と言い出したため、コンサルタント出身の吉田氏から急ぎ過ぎたと注意された。創業者の安田氏は、吉田氏の意見に賛同し、大原氏を更迭し、吉田氏を社長に据えた、というものだ。
さまざまな説が飛び交ったが、決め手となるものはなかった。はっきりしているのは、安田氏が大原氏を切ったという事実だ。安田氏は、何に激怒して、功労者の大原氏を切ったのか。これが最大の謎であった。
今回、大原氏による知人への不正推奨疑惑が報じられた。上場会社の経営者にとって、インサイダー取引への関与は、自分が売買していなくても、それだけで「アウト」、経営者失格だ。安田氏は大原氏のインサイダー取引疑惑に激怒して、大原氏を切ったのではないか。そう考えると、唐突な退任の疑問に得心がいったのである。
(つづく)
【森村 和男】
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