「後出しジャンケン」のニトリが勝利~DCMとの島忠争奪戦の顛末(1)
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(株)ニトリホールディングス(以下、ニトリ)とDCMホールディングス(株)(以下、DCM)による(株)島忠の争奪戦では、島忠がDCMと一度結んだ経営統合の合意を撤回し、より好条件を提示したニトリに乗り換えた。 北海道発祥の2社による異例な買収劇となった。DCMによる友好的なTOB(株式公開買い付け)が進んでいたなか、「後出しジャンケン」のニトリに軍配が上がった。
島忠、DCMからニトリに異例の乗り換え
ホームセンター大手の島忠は11月13日、家具大手・ニトリによるTOBに賛同し、完全子会社化となることに合意したと発表した。島忠は、ホームセンター大手・DCMによるTOBにいったんは賛同したが、これを撤回し、より高値で買い付けるニトリの提案を受け入れた。
島忠株をめぐっては、ホーマックなどを営むDCMが1株4,200円で買い付けを進めていたが、ニトリが3割高い5,500円での対抗TOBを表明。DCMによる買い付け期限である16日を控え、島忠の対応が注目されていた。
島忠はDCMに書面で価格引き上げの可能性や額を確認したが、回答を得られなかったという。島忠にとっては、その価格差があまりに開き、DCMを選べば株主の理解を得られないとの懸念がぬぐえなかったのであろう。
ニトリは、島忠の完全子会社化を目指すTOBを16日から12月28日まで実施。その買い付け総額は約2,100億円にのぼる。
ニトリは「先出し」で敗れたHISを教訓に
ニトリの似鳥昭雄会長は、「後出しジャンケン」作戦が的中して“してやったり”という心境だろう。先に仕掛けると不利になると判断して、「先出し」ではなく「後出し」を狙った。
その教訓としたのが、2019年のホテル・不動産大手のユニゾホールディングス(株)(以下、ユニゾ)に対するTOB合戦である。同7月に旅行大手(株)エイチ・アイ・エス(HIS)がユニゾに1株3,100円でTOBを仕掛けたが、そこにソフトバンクグループの米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループ(以下、フォートレス)が、ホワイトナイト(白馬の騎士)として1株4,000円でTOBを実施した。
両社によるTOB合戦の期待から、ユニゾ株は高騰。株価が自身の提案したTOB価格を上回って推移したため、HISはTOBを断念した。先出しのHISは、後出しのフォートレスに返し技で敗れた。
後出しジャンケンの利点をフルに活用
ニトリは、DCMによる島忠の買収の動きを察知していたが、先に仕掛けるとHISの二の舞になると判断し、「後出し」に回った。価格面を含め戦略が立てやすいため、DCMによる島忠買収の発表を先に行わせたほうが良かった。
DCMによるTOB価格は島忠1株あたり4,200円、総額は約1,600億円。これは島忠の純資産1,815億円(8月末)を下回る。似鳥会長はこのような割安の水準なら、「勝てる」と判断した。
ニトリのTOB提案について問われた島忠の岡野恭明社長は13日の記者会見で、「5,500円の買い付け価格については、正直びっくりした」と率直に答えた。自社の企業価値を示す買い付け価格において、DCMを約3割上回る価格をつけた提案を断るのは難しいと考えたという。
ニトリは、DCMの条件を見た上で、より良い条件を提示できるという利点をフルに活用した。ニトリによる買収提案の内容には、島忠への配慮がにじんでいる。完全子会社化した後も島忠のブランドは維持し、岡野社長は続投させる方針。従業員の雇用は、少なくとも5年間は守るという。
ニトリは「後出しジャンケン」で完勝したのである。
(つづく)
【森村 和男】
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