2024年11月24日( 日 )

「尖閣諸島をめぐる日中対立の真相と今後の打開への道」(5)

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国際政治経済学者 浜田 和幸

 我々が認識しておくべきは、学術的な観点から日中間の歴史的問題を公平かつ客観的に研究しようとする提案が繰り返し中国側から提案されていることに対し、日本以外の国々の専門家や研究者の間では、一方の当事者が「問題がある」と指摘している限り、それは問題が存在するのではないか、という考え方が広がりつつあることだ。

 日本政府がそうした中国の申し出や主張を「一顧だにしない」姿勢を貫いているということは、日本の立場からすれば至極当然のことではあろうが、国際社会から見た場合には、まったく異なる構図が浮かび上がってくる。すなわち、日本の1人善がりの主張と誤解、あるいは曲解される可能性があるからである。

 ましてや尖閣問題に無関係な日中両国以外の人々にすれば、なお更のことであろう。先に危惧を述べたように、一方が問題だと言っている限り、そこには未解決の問題が存在するのでは、と受け止めるのが常識的判断となりかねない。中国はまさにそこを狙っているわけだ。

 2020年10月、中国の国家海洋局直属の国家海洋情報センターは「中国釣魚島デジタル博物館」を開設。同サイトでは「釣魚島(尖閣諸島)は中国固有の領土」と大書し、「自然環境」「歴史的根拠」「文学」「法的文書」など9つの視点から、中国が主張する根拠となる史料や地図を紹介している。しかも、中国語、英語、日本語で説明が施されており、近くドイツ語、ロシア語、スペイン語などのサービスも追加されるとのこと。

 日本政府が立ち上げた「領土・主権展示館」と比べ、内容も展示方法も充実したものである。両者を見比べれば、国際的なアピール度においては、残念ながら、中国側に軍配を上げざるを得ない。日本政府による「歴史的にも国際法上からも日本の固有の領土である」という主張を繰り返すだけでは国際社会は納得しないだろう。

 電話で大統領選勝利への祝意を伝えた菅総理に対し、バイデン次期大統領は「日米安保条約に照らし、尖閣諸島の有事に際しては、アメリカが関与する」との言質を与えたとのこと。しかし、これだけでは具体性を欠き、あくまでリップサービスの域を出ない。過度の期待は墓穴を掘ることになる。日本自身が自前の防衛力を整備し、何があっても尖閣諸島を守るという意思を鮮明に打ち出さない限り、冷徹なアメリカは高みの見物を決め込むこともあり得る。

 実際、小生がこれまで参加した数多くの国際会議の場においても、アメリカやロシアの研究者や議会関係者の間では、「政治家が加わると問題がこじれるので、専門家を集め、客観的かつ学術的な検討を加えるべきではないか」といった意見が大勢を占めていた。中国式情報戦略は奥が深いことを肝に銘じておく必要があろう。冒頭で触れた王毅外相の強硬発言も、そうした中国政府の対外情報発信の一環としか思えない。狙いは国際社会へのアピールなのである。日本は1人善がり外交を卒業し、全世界に向けてのアピール、とりわけアジア諸国を軸にしたアライアンス外交で中国とも向き合うべきだ。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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