中国の再エネ巨大市場 脱炭素化を追い風に「技術覇権」狙う(前)
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東北大学東北アジア研究センター
教授 明日香 壽川 氏中国は世界の太陽光パネル生産量の約8割を占め、風力発電設備でも主要生産国の1つだ。巨大エネルギー市場をもつ中国は石炭火力発電が主力であるが、2020年に新設された風力発電は前年比2.7倍、太陽光発電も同1.8倍と再生可能エネルギーが急拡大している。「2060年にカーボンニュートラル」「再エネの技術覇権国」を掲げる中国の再エネ化はどこまで進んでいるのか。東北大学東北アジア研究センター教授・明日香壽川氏に、中国の再エネ政策と市場動向を聞いた。
石炭火力発電から太陽光・風力発電へ
中国は2020年の1年間に、風力発電を前年比2.7倍、太陽光発電を同1.8倍の規模で新設し、合計導入量は120GWにおよぶと発表。これは原発約120基分におよび、累積導入量は世界1位だ。
中国では、1980~90年代に外資系企業の誘致も含めた再生可能エネルギーへの国内投資が開始され、技術力が高まって新たな市場が生まれた。電力の6割以上を石炭火力発電に頼ってきた中国で、再エネ市場が拡大したきっかけの1つに、13年ごろに深刻な大気汚染によるPM2.5の健康被害が世界的な問題に浮上したことがある。中央政府により、北京などの大都市での強制的な石炭使用禁止や炭鉱・工場閉鎖が行われたため、代替エネルギーとして再エネ需要が高まった。
その結果、17年10~12月には、石炭使用が規制された北京・天津・河北といった大気汚染伝播ルート都市のPM2.5濃度(平均)は前年同期比34.3%低下し、20年末には総発電量に占める石炭火力発電が初めて50%を下回った。東北大学東北アジア研究センター教授・明日香壽川氏は、「どの国でもトップダウンで環境改善策を行わなければ、社会は変わりません」と語る。
一方、大気汚染対策と5カ年計画により、このような「強行策」が実施された結果、17~18年は石炭が禁止された地域で天然ガスの供給が間に合わず、数万人が暖房なしで冬を過ごさなければならなかったという大きな社会問題も起きた。しかし、このような政策により、中国ではエネルギー消費量が年々増えているにもかかわらず、石炭使用量は増えずに横ばいにとどまっている。
中国政府は「2060年までにカーボンニュートラル(脱炭素)の達成」を掲げているが、中国ではエネルギー全体に占める石炭火力発電の割合が今でも高く、石炭使用量もここ5年ほど世界一だ。
世界では太陽光発電のコストはこの10年間で約5分の1、風力発電も半分以下まで下がり、中国でも再エネのコストは石炭火力と同等か、またはそれよりも安くなっているが、石炭火力から再エネへの移行は簡単ではない。石炭や鉄鋼の需要に対して生産量が大きすぎるオーバーキャパシティーの問題があり、炭鉱や石炭火力発電所など石炭関連に携わる人口は数百万人と多く、地方行政にとって石炭産業の雇用維持や企業への補償が大きな問題となるためだ。
明日香氏は中国国内の実情について、「中央の共産党指導部が決めた目標に従わなければ地方幹部の昇進にかかわるため、地方政府は中央の方針であるエネルギー効率や温暖化対策の数値目標を守ろうとしています。一方、石炭火力発電や鉄鋼業など化石燃料を使う産業に従事する人口が多い地方では、産業構造を変えないケースもあります。炭鉱が多く、安価で石炭が手に入る内蒙古自治区や山西省、湖南省は石炭を流通させるべく石炭火力発電所の新設や増設を続けており、中国全体でも20年は5月までに、19年比1.6倍に当たる48GWの石炭火力発電所の新設許可が行われています」と説明する。
北京や上海などの大都市は近代的な街が立ち並ぶ一方、地方では道路などのインフラが整っておらず、車や電化製品もあまりない質素な暮らしが続き、エネルギー源として石炭を活用している場所も多い。中国は日本とは比べものにならないほど国土が広大で貧富の差が激しいため、地域によって事情が大きく異なるのだ。
世界の再エネ市場の成長で貿易が拡大
「中国では10~11年ごろに固定価格買取制度(FIT)が導入されてから再エネが急速に拡大し、昨年末からFITの段階的打ち切りによる駆け込み需要で多くの再エネが導入されました。今では再エネの発電効率が上がって安く発電できるため、補助金がなくても採算が合うレベルになり、FIT終了後も再エネの投資額は減りません。今後も再エネの導入は増え続けるでしょう」(明日香氏)。
中国は国土が広く、人里のない荒野や砂漠が多いため、太陽光発電や陸上風力発電に適した立地が広がる。20年は、年間発電電力量のうち風力発電が占める割合が6.1%、太陽光発電が3.4%に達した(日本は風力発電0.86%、太陽光発電8.5%)。企業間の排出量取引制度による市場取引が今夏に本格的に開始され、この政策によっても再エネ転換が進むと予想されている。
中国企業は再エネにおいて、実質的に技術覇権(テクノヘゲモニー)をもちつつある。たとえば、世界のソーラーパネル市場の約8割、風力発電設備でも5割近くを占める。ファーウェイは再エネ利用に不可欠な安価な蓄電池の開発を進めており、上海GM五菱汽車も安価な電気自動車(EV)を展開している。
(つづく)
【石井 ゆかり】
<プロフィール>
明日香 壽川(あすか・じゅせん)
1959年生まれ。東北大学東北アジア研究センター教授(兼)環境科学研究科教授。東京大学大学院農学系研究科(農学修士)、欧州経営大学院(INSEAD、経営学修士)、東京大学大学院工学系研究科(学術博士)。電力中央研究所経済社会研究所研究員、京都大学経済研究所客員助教授、(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動グループ・ディレクターなどを歴任。主な著書に『グリーン・ニューディール:世界を動かすガバニング・アジェンダ』(岩波新書)、『脱「原発・温暖化」の経済学』(中央経済社)など。関連キーワード
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