2024年12月23日( 月 )

衰退する日本の現状【特別寄稿】(前)

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名古屋市立大学 特任教授 中川 十郎 氏

躍進続く、中国の経済力と研究・開発力

中川 十郎 氏
中川 十郎 氏

 外務省国際情報局長、駐ウズベキスタン大使、駐イラン大使を歴任され、『戦後史の正体』など多くのベストセラーを執筆されている孫崎亨氏(日本ビジネスインテリジェンス協会顧問)の講演会が先日あり、参加した。そのなかで、日本の衰退の実情について諸資料を基に説明があった。これらの資料も参考にしつつ、野口悠紀雄氏の近著『リープフロッグ』(文春新書)、近藤大介氏の『ファクトで読む米中新冷戦とアフターコロナ』(講談社現代新書)なども参照しながら「日本の衰退の現状」について筆者の見解も交え、以下論じたい。

 米国諜報機関CIAのWorld FACTBOOKでの購買力平価ベースの主要国GDPは、①中国 25.3兆ドル、②米国、19.3兆ドル、③インド 9.4兆ドル、④日本 5.4(以下、兆ドル)⑤ドイツ4.1、⑥ロシア 4.0、⑦インドネシア 3.2、⑧ブラジル 3.2、⑨英国2.9、⑩仏 2.8 、以下メキシコ、イタリア、トルコ、韓国ともに 2.0となり、中国が米国を抜いて世界1位である。インドも日本に2倍近い差をつけて米国に次ぐ3位。2028年には実質GDPでもインドは日本を抜き、世界第3位になると予測されている。

 中国の技術力も躍進。5Gのパテントでは3,325と世界最大である。2020年、自然科学の論文数で中国は米国を抜き、初めて世界1位となった。論文数での首位は5年連続で中国科学院だ。日本は11位までに入っていない。日本の輸出の順位は1位が中国、あと米国、ASEAN、西欧、台湾、韓国がベスト6だ。野口悠紀雄氏の上記書によると、スイスの国際開発研究所(IMD)の国際競争力ランキングでの日本は1989年から1992年までは3年間、世界第1位だった。しかし、2020年には34位に低下。デジタル技術では、63の国と地域なかで下から2番目の62位という情けない状況だ。

 日本のデジタル化の遅れは目を覆わんばかりだ。新型コロナウイルス対処ではデジタル化の遅れが痛感された。新型コロナ感染者数把握作業ではFaxで情報を送り、手計算で集計する非近代的な対応ぶりが問題となった。他方、中国は最新技術を駆使してコロナ感染を阻止。台湾もデジタル担当大臣の指導でマスクの配布など見事に処理し、感染阻止に成功。コロナの非常事態に直面し、初めて日本がこれらの国とは比較できないほどIT化が遅れていることがわかった。

 近藤大介氏の前掲書によるとアジア諸国から日本は「年老いたゴールドメダリスト」と呼ばれている由。20世紀のアジアは「日本の世紀」だった。しかし21世紀前半は中国が主導権を握り、後半はインドの世紀になるとみられている。

 2020年上半期、ASEANは中国最大の貿易相手に踊り出た。一方ASEANにとって中国は2009年以降、10年以上も連続して最大の貿易相手国に成長している。日本としても日本衰退を止めるためには中国、ASEANを中心にアジア諸国との関係強化が必要だ。

デジタル立国政策で大きな遅れ

 政府が5月28日に発表した雇用関連統計によると、4月の完全失業率は2.8%に悪化。有効求人倍率も2020年4月の1.3倍から6カ月ぶりに1.09倍に低下。コロナ感染が再拡大する東京都や大阪府では1倍を割り込んでいる。完全失業者数は前年同月比20万人増の209万人で、15カ月連続で前年同月を上回った。就業者数は6,657万人で、2年前の4月と比べて51万人減っており、新型コロナウイルスの感染拡大前の水準には回復していない。産業別では宿泊、飲食サービス業で厳しい状況が続き、就業者数は前年比20万人減。2年前に比べて66万人減となっている。

 4月28日発表のアジア開発銀行の「アジア太平洋地域46カ国、地域の経済予測」では、2021年のアジア新興国GDPは前年比7.3%のプラス。2022年は5.3%。これをけん引している中国は2021年8.1%、2022年5.3%増と予測。インドは2020年▲8%、2021年11%、2022年、7%、ASEANと東ティモールは2021年4.4%と予測している。

 日本は2020年度のGDP成長率が戦後最大のマイナス幅となった。政府はグリーン(環境)とデジタルを次の成長戦略の原動力にするとしているが、具体的な動きがみられない。2050年のカーボンゼロの政策は原発再稼働で実現しようとしており国民の間に批判が強い。

中川 十郎 氏 電気自動車についても欧米に比べて日本では動きが鈍い。筆者が2019年9月に訪問した中国・合肥市の電気自動車工場では、ロボットを大量に活用。かつ車体の重量を抑えてエネルギー効率を高めるために、車体にアルミを多用していた。工場の関係者は中国が世界の電気自動車の50%のシェアを目指すと豪語していた。成長分野の半導体やスマートフォンでは台湾、韓国、中国のメーカーの独壇場だ。ここでも日本の出遅れが目立つ。

 日経新聞主催「デジタル立国ジャパン・フォーラム」(5月28日)では白熱した議論が展開された。台湾のオードリー・タン・デジタル大臣は台湾のデジタル革命でバーなどのロックダウンは行わず、社会全体のデジタル化で感染者を抑え込んだと強調した。台湾のIoT、AIなどDigital技術を活用したコロナ感染封じ込め策は、マイナンバーカードの混乱などで後手に回った日本と比較し、国際社会から高く評価されている。さらにアジアでは中国をはじめ、韓国、タイ、ベトナム、シンガポールなどの日本をはるかに上回るコロナ封じ込め策がコロナ対策後進国の日本をしり目に、効果を発揮している。5月末になっても日本のワクチン接種が人口の2~3%という情けなさは、海外からも批判の的になっている。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎
(なかがわ・じゅうろう)
 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長を経て、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授など歴任。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、中国競争情報協会国際顧問、日本コンペティティブ・インテリジェンス学会顧問など。著書多数。

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