アメリカに出始めた現実的な対中ビジネス路線への回帰(後)
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国際未来科学研究所 代表 浜田 和幸
「台湾有事」は「日本有事」
一方、気がかりなのは台湾情勢です。アメリカがどこまで関与するのか不明ですが、中国の台頭を最も危険視するバイデン政権はトランプ政権時代より、インド、オーストラリア、日本などアジアの同盟国に加え、英国やフランス、オランダなどヨーロッパ勢も巻き込んでの「中国包囲網」の形成に余念がないからです。
万が一、台湾海峡で戦火が交わるような事態になれば、日本にとっては海上輸送路が遮断されることになり、石油や半導体などの輸入は7割から8割は途絶えるとの試算もあるほどです。まさに、「台湾有事」は「日本有事」ともいえます。
岸田政権ではアメリカと連携して中国の動きをけん制する考えのようですが、冷静な判断と柔軟な対応が求められるでしょう。なぜなら、中国が台湾の防衛識別圏内への飛来回数を急速に拡大するようになった背景には、アメリカとイギリスがオーストラリアへの原子力潜水艦技術の移転を決めたことも大きく影響していることは容易に推察できるからです。
アメリカが「虎の子」の原潜建造技術を外国に提供するのは1950年代以来初のことで、「核拡散防止条約に違反する」との批判もあります。しかも、その狙いが「中国の脅威に対抗するため」ともなれば、中国もそれなりの対抗姿勢を示さざるを得ないことになるでしょう。相手の立場から物を見るという習慣を養っておかなければ、判断を誤ることになりかねません。
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米中対立が深刻化 最悪のシナリオを避ける方策は?(前)折しも、アメリカはCIA内に新たに「チャイナ・ミッション・センター」を立ち上げ、中国に関する情報収集機能を高め、中国の脅威を内外にアピールする活動を強化し始めました。日本でも報道されましたが、この10月頭には、南シナ海において米原子力潜水艦が正体不明の物体と衝突し、10人の負傷者も発生したとのこと。自力でグアムまでたどり着いたようです。懸念されたような放射能の流出はなかった模様ですが、原因は公表されておらず、気になる事故でした。
「第2の市場開放路線」追求
しかも、このような事件を受け、国防総省傘下の海軍戦争大学校のゴールドスタイン教授は「キューパ・ミサイル危機に匹敵する」とまで危機感を煽る発言を繰り出しています。これでは「攻撃を仕掛けてきたのは中国の潜水艦だ」と暗に訴えているようなものです。こうした好戦的な発言は極めて危険なものといえるでしょう。
時を同じくして、アメリカのメディアは「アメリカの特殊部隊が台湾にて極秘の軍事訓練をこれまで2年にわたって行ってきた」とリークしています。「中国からの軍事的脅威に対抗するため」と言われていますが、要は、「中国との開戦」を前提としているとしか思えません。CIAの新組織では、そうしたシナリオを虎視眈々と練っているようです。
日本にとっては、その一翼を担うようなことは「百害あって一利なし」です。アメリカの対中強硬派や軍需産業にとっては「願ってもない戦争ビジネス」との受け止め方が主流になっているようですが、日本を含め周辺国にとっては大迷惑な話と言わざるを得ません。
日本とすれば、アメリカ、中国双方との信頼関係を通じて、そうした最悪の事態を回避するため、水面下の動きに注力すべきと思われます。幸い、前編で紹介したように、アメリカのUSTRや商務省、そして経済界では米中衝突を回避するためにもRecoupling戦略を目指す動きが出てきました。
中国はWTO加盟に次いで、「第2の市場開放路線」を追求しようとしており、RCEPに止まらず、CPTPPへの加入を申し出ています。現時点では、台湾が先行していますが、CPTTPの中心メンバーである日本とすれば、中国、台湾の同時加盟の可能性も吟味するという大胆な奇策も検討する価値があるでしょう。
(了)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。関連キーワード
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