2024年11月21日( 木 )

【IR福岡誘致開発特別連載69】IR長崎の危機、IR大阪の大幅遅れと巨額な公費負担増

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二次的な説明に終始

 福岡市でIR誘致開発を積極的に推進する目的で設立された「九州IR推進協議会」(会長・倉富純男九州経済連合会長)とIR長崎の運営事業予定者のカジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン(CAIJ)との主催で、「九州IRシンポジウム」が20日に開かれ、九州経済連合会名誉会長の麻生泰氏(麻生副首相の実弟)以下、福岡市財界、長崎、佐世保財界関係者約210名が参加した。

 しかし、なぜか当事者であるCAIJ代表の林明男氏や、中村法道長崎県知事、朝長則男佐世保市長などの姿が見えない。各関係者やマスコミから具体的な質問でもされたら困るという懸念からかどうかは定かではない。

 すでにお伝えしている内容と同様、同シンポジウムにおいても「核」となる何らかの具体的な解説、説明などは一切行われず、常に二次的な概要の説明に終始している。これはある意味、無責任な姿勢といえる。本当にIR誘致を応援しようと思うなら、厳しさと情熱をもって参加すべきである。

 シンポジウム参加者たちが、年間集客計画840万人を本当に確信できるのなら、リスクを負ってでも本件の巨額な総投資額の一部を投資すると「檄」を飛ばすくらいの迫力が必須である。しかし、参加者のなかにそんなことをいう「胆力」を持ち合わせている者はいない。こうしたプロジェクトは、日本の組織特有の「赤信号、皆で渡れば怖くない」方式でないと実現しないのである。ただ、いまだに資金調達が明確ではない状況では、諸手を挙げて無責任に応援すべきではない。逆に、間違えたら「負の遺産」になるとして、参加者は当事者たちを戒めるべき立場にある。

 これでは頼みの綱であるCAIJの林社長が巨額な資金を付けるのならば、リスクを冒さなくて済むので、プロジェクトに乗りますよ、と言っているようなものだ。しかし、おそらく、それもあまり期待しておらず、それぞれがコメンテーターなみの覚悟しかなく、「投資する人が誰か出てきてほしい」という期待だけのプロモーションなのである。

IR大阪、土壌改良費用に790億円

夢洲 イメージ 最も計画が進んでいたIR大阪だが、ここにきて問題山積となっている。先日、松井大阪市長は、前々から指摘されていた当該候補地である夢洲の土壌改良工事(埋め立て地にヒ素、フッ素などが混入)が新たに必要となり、その費用として、さらに790億円を市が負担するとして、本件IRの開業予定が2029年春以降に遅れると公表したのだ。

 従って、確実視されていたIR大阪は相当遅れることになるが、IR長崎とは大きく異なり、本件プロジェクトの組織組成と巨額な投資額、そして各々の負担割合などは完全に明確になっている。

 米国MGMにオリックス、さらに、パナソニックにJR西日本、関西電力、大阪ガスなど20社が一同に集い「大阪IR㈱」を設立するとしている。これぞまさしく「開発運営事業母体コンソーシアム」である。

 さらに、彼らは観光客に頼らず、関西都市圏周辺をはじめとする国内客を主体とした年間2,000万人の集客計画をたてている。よって、IR和歌山もIR長崎もIR大阪とは比較にならず、当初から「絵に描いた餅」であり、ともに実現は困難なのだ。今回のコロナ禍で海外観光客を主体とした集客計画は完全に破綻している。いずれの投資家も金融機関も、これらを信頼することはないのである。

 これは簡単な「算数」である。重ねて説明するが「豊かな後背地人口の有無」すなわち、大都市圏でないと絶対にIRプロジェクトの採算性はないのである。政治家のパフォーマンスに忖度せず、民間先行で、まずは自らがリスクを取る覚悟で動かないと本件が実現する可能性はない。

 九州IR誘致開発推進において実現可能性があるのは、巨大な後背地人口を有する「福岡市を中心とした北部九州都市圏」しかない。新幹線を含めた交通インフラが充足すればするほど、熊本や長崎の人たちは福岡に来るようになり、その逆はあり得ないからである。

【青木 義彦】

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