2024年11月24日( 日 )

ブックオフ創業者坂本氏死去、稲盛氏の叱咤で再起(後)

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 ブックオフコーポレーション(株)創業者で、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」などを展開する「俺の株式会社」名誉会長の坂本孝氏が1月26日、肺疾患のため死去した。81歳だった。坂本氏はハーバードビジネススクールの「ベンチャーオブザイヤー賞」を受賞するなど起業家として数々の賞を受賞するなど、「時代の寵児」ともてはやされたが、2007年に「文春砲」の直撃を受け、奈落の底に突き落とされる。しかし、稲盛和夫氏の叱咤を受け、心機一転、新事業に取り組んだ。今回は坂本孝という「異才」の人生をふりかえることにする。

恐怖を感じるほど稲盛氏に叱られる

 坂本氏は経営哲学において、京セラ創業者、稲盛和夫名誉会長の影響を受けており、稲盛和夫氏の経営塾「盛和塾」を代表するベンチャー経営者だ。

 坂本氏が師と仰ぐ稲盛氏は、自分の利益ばかりを追い求めるのではなく、常に相手の利益を考える「利他の精神」を唱えていた。リベート問題は、その精神を踏みにじる行為だと見なされた。

 坂本氏は、東京駅に近い京セラ東京事務所の応接室に呼び出された。稲盛氏の怒りはすさまじかった。前出のDIAMOND onlineにこう書いた。

 〈稲盛塾長の第一声は、「あんたは盛和塾でなにを勉強してきたのか!」だった。その語気の鋭さ、激しさ、重さに、アドバイスをいただけると悠長に構えていたのとは真逆のことが起ころうとしているのに気づかされた。
 質問に私は、「え~っと」と口に出して思いつくだけの返答をする。そうすると稲盛塾長から、「言い訳をいうな」と一喝される。そして私の返答にいらいらするのか、拳で応接テーブルをトントンと叩き出した〉

 〈とにかく、怖かった。人から叱られて、あれほどの恐怖を感じたことは人生に一度もなかった。街金からの借金を返せず、逃げ回っているときでさえ、こんな恐ろしさを感じたことはなかった。
 もっといえば身の危険を感じるほどの気迫ある怒りであり、私はそれを受け止めることができなかった。よく「人に叱られて震え上がる」というが、あのときの私は、まさにそれだった〉

怒鳴り上げた後、「挑戦しろ」と激励

 稲盛氏が、なぜ、恐怖を与えるほど坂本氏を怒鳴り散らしたのかというと、稲盛氏が坂本氏の心の奥底にある「闇」を消し去ろうとしたからだ。坂本氏はブックオフ会長を退任する際、自分を裏切った人間が数人いて、彼らをどうしても許せなかった。そのことを、稲盛氏は盛和塾のメンバーの話などから見抜いていた。

 〈稲盛塾長は、「君は復讐しようとしているな」とも言った。図星である。実は私はそう思っていた。内部告発に加担したメンバーの顔を思い浮かべ、「あいつらだけは許さない。いつか」と。
 しかし、そのときの稲盛塾長のやり取りのなかで鮮明に覚えているのは、そのことぐらいだ〉

 稲盛氏は、人を恨むのは、過去を引きずることだ。利他に立ち返って、次の人生に立ち向かえと諭したのである。

 45分の面会を終え、帰り際に稲盛塾長はエレベーターまで送ってくれた。

 〈そのとき、あのでっかい手を出してくれた。稲盛塾長は身長が180cmぐらいあり、私も178cmぐらいだから、握手した男同士の手はでかい。稲盛塾長は、その手をじっと見て、「挑戦しろ」と言ってくれた。「俺が付いているから大丈夫だ。なんでも相談に来い。いつでも電話かけてこい」〉

 坂本氏はそのとき、稲盛氏が最後の一言をかけるために、延々怒鳴り続けたことに気付いたのだ。

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」が大ヒット

レストラン イメージ    稲盛氏の「挑戦しろ」との激励を受け、坂本氏は70歳をすぎて挑戦した。坂本氏にとっての13回目の起業は飲食業だ。坂本氏は40%程度保有していたブックオフ株の大半を売却。手にした資金を使って、11年9月、「俺のイタリアン」を東京・新橋にオープンさせた。

 フォアグラやオマールエビといった高級食材を使って有名店出身のシェフが料理しながら、1,000円台という安価で料理を提供。原価率は高いものの、立食スタイルにして回転率を高めることで、客単価が3,000円でも利益を生み出せるモデルを実現した。

 立ち食いで回転率を高め、高級料理を安値で提供するという斬新なビジネスモデルが支持され、12年に「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」を運営する「俺の株式会社」を設立して、一大ブームを巻き起こした。

 〈裏切り者に対する復讐の思いは、そのエネルギーを次の挑戦に振り向け、「俺の」に結実している〉と坂本氏は綴る。

 坂本氏の著書『俺のイタリアン 俺のフレンチ ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方』(商業界刊)の表紙の帯には、師・稲盛和夫氏の「推薦します」との一文が添えられている。

(了)

【森村 和男】

(中)

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