2024年11月23日( 土 )

物流業界のモーダルシフトの担い手―東京九州フェリー(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

物流以外に旅客層も開拓

はかた号 イメージ    東京~北九州間の旅客輸送は航空機が圧倒的なシェアを確保しているが、従来のフェリーに見られた座敷席ではなく個室寝台とすることで、航空機や新幹線、天神~新宿間を結ぶ西鉄の高速バス「はかた号」とも差別化が図れる。

 フェリーには食堂や売店、浴場、子どもの遊び場が備わっているが、東京九州フェリーは長時間の船旅を退屈させないように、プラネタリウムを上映できる映画館やカラオケボックス、トレーニングルーム、ペットと一緒に利用できる客室も設けられ、他社のフェリーとも差別化が図られている。

 このような長時間の船旅を退屈させずに過ごしてもらうサービスの提供は、物流会社やトラック運転手にとっても重要である。トラック運転手の確保が困難になりつつあるなか、フェリーで十分な休息を提供することで労働条件を改善できて、また陸送を減らせることからモーダルシフトにもつながる。

 フェリーの食堂はバイキングやカフェテリアが一般的であるが、東京九州フェリーでは乗客が料理などをタッチパネルで注文すると、クルーが席まで運び、食べ終わった食器類を片付ける人的サービスを行っている。メニューも、出港地である九州各地や神奈川県の名物料理を船内でシェフが調理し、「郷土色」を打ち出して差別化を図っている。夏場は屋外でバーベキューも実施するという。

 これらは40年以上も昔のサービスであり、昨今のフェリー業界は経営面で厳しい事業者も多く、セルフサービスで対応するため、前述の通り食事はバイキングやカフェテリアが主流である。関係者の話によれば、船員が厨房に入り皿洗いをするなど、少ない要員でサービスを提供する傾向にある。

 決済についてはクレジットカードの使用が可能であり、これに関しては、ほかのフェリー船社に影響を与えるものと思われる。

 東京九州フェリーが人的サービスに力を入れる背景として、クルーズ客船の利用者の増加がある。クルーズ客船は長い船旅を楽しむことを目的とし、横須賀~新門司間であれば上りの所要時間が20時間50分、下りが21時間15分というように時間を要する。

 そうなると、乗客にとって思い出に残る船旅とするため、クルーズ船のノウハウを活用して乗客を退屈させなくする必要がある。そこで、前面の展望が楽しめるパブリックなラウンジが設けられた。

 東京九州フェリーでは、自家用車やバイク、自転車で、九州や関東地方をドライブまたはツーリングする需要も多いという。九州は通年でツーリングを楽しめるため、関東~九州間を21時間程度で結ぶ高速フェリーの誕生は、物流だけでなく、新規の旅客層も開拓したといえる。

 東京九州フェリーの旅客層は、リタイヤした熟年夫婦以外に、帰省する学生やツーリング族などが多く、それに対して30~50代の利用者は少ないという。

 ただし、横須賀や新門司の出港が午後11時50分頃であるから、仕事を終えたサラリーマンが金曜日の夜に会社からそのままフェリーターミナルへ直行し、乗船して船旅を楽しむことも可能である。

 東京九州フェリーでは、「カジュアルクルーズ」という感じのサービスが提供されているが、高級個室の“デラックス”と1人用個室の“ツーリストS”の間のグレードの部屋がないため、窓とトイレ・洗面台を備えた1人用の個室があってもよいと感じる。

 フェリーターミナルは都心部から離れているため、アクセス手段が不可欠である。横須賀側は送迎バスなどがなく、徒歩かタクシーでアクセスしなければならず、それが今後の課題である。

 一方の新門司側は、小倉駅までは無料の送迎バスがあり、その運行は西鉄が担う。西鉄もコロナ禍により利用者が減少して経営面で苦しいことから、運賃の値上げを実施している。新門司港と小倉駅を結ぶアクセス輸送を担うことで、西鉄にとっては安定した収入が入り、東京九州フェリーともどもWin-Winの関係が構築されている。

(了)

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