2024年11月23日( 土 )

任天堂創業家、東洋建設にTOB、インフロニアのTOBは不成立(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 任天堂創業家の資産運用会社、(一社)ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(以下、YFO、本社:東京都港区)が、マリコン(海洋土木)大手の東洋建設(株)に対してTOB(株式公開買い付け)を正式に提案した。YFOを率いるのは任天堂創業家の若き御曹司の山内万丈氏。狙いは何か。

インフロニアによる東洋建設TOBは不成立

東京都千代田区 イメージ    前田建設工業(株)や前田道路(株)などを傘下にもつインフロニア・ホールディングス(株)(以下、インフロニア)は5月20日、東洋建設(株)に対するTOB(株式公開買い付け)が不成立に終わったと発表した。

 インフロニアは傘下の前田建設が東洋建設の約2割の株式を保有しており、完全子会社化を目指して、3月23日から5月19日まで1株770円でTOBをしていた。4,383万株(発行済み株式の約46%)の応募が成立条件だったが、応募は405万株にとどまった。TOBの不成立を受け、インフロニアは応募分を含めて買い付けをしない。

 インフロニアがTOBを始めて1週間たった3月31日。「WK」1~3という投資ファンドが東洋建設株を5.48%保有しているとする大量保有報告書を関東財務局に出した。

 WKは保有比率を高め、4月22日時点で27.19%を保有、筆頭株主の前田建設(20.19%)を上回った。筆頭株主になったWKはケイマン諸島籍で、任天堂創業家の資産運用会社ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)が出資する。

 YFOがインフロニアのTOBに待ったをかけた。YFOの参戦で、TOB合戦の期待から株価は上昇。インフロニアのTOB価格を上回って推移し、5月19日の終値は921円。インフロニアのTOBは失敗した。

任天堂の資産運用会社YFOがTOBを正式表明

 YFOは4月22日、インフロニアの1株770円を上回る1株1,000円でのTOBを提案した。東洋建設の経営陣に対しては、インフロニアの買収提案への賛同を撤回するよう求めた。

 東洋建設は、YFOとの間でやりとりされた書簡3通を公開した。それによると、インフロニアのTOB価格は、今後の拡大が期待できる洋上風力関連事業や海外への事業展開における成長を織り込んでおらず、東洋建設の中長期的な企業価値の向上に資するか危惧していると疑問を呈している。

 YFOは、インフロニアのTOB価格について「低い金額といわざるを得ない」と主張し、株式非公開化を前提とした買収を提案していた。

 インフロニアのTOB不成立を受け、YFOは5月19日に東洋建設経営陣の同意を前提として、6月下旬にもTOBに乗り出す方針を正式に発表した。

 東洋建設の取締役会はインフロニアのTOBに賛成し、応募を推奨していた。YFOの提案を受け、応募推奨は取り下げたが賛成は継続していた。TOBの不成立を受け、YFOの買収提案に対する経営陣の対応が今後の焦点になる。

 東洋建設はインフロニアのTOB不成立を受け、無配としていた22年3月期の配当を前期比5円減の年20円にすると発表した。

東洋建設業績推移

売上高1兆円のスーパーゼネコンが前田建設の悲願

 YFOに横槍を入れられ、TOBに失敗したインフロニアが尻尾を巻いて引き下がるとみる向きは皆無だろう。インフロニアにとって、東洋建設はグループ再編に欠かせない重要なカードであるからだ。

 インフロニアHDは21年10月、前田建設工業が子会社の前田道路やコマツ製品を扱うクレーン大手の(株)前田製作所と経営統合して発足した持株会社。社名は、時代ごとのインフラの革新者(イノベーティブ)、先駆者(パイオニア)、エンジニア・フロンティアという思いを込めた造語だ。

 東洋建設は02年に当時の(株)UFJ銀行(現・(株)三菱UFJ銀行)などから金融支援を受けた際、前田建設が信用補完のために資本提携し、21年末時点で同社の発行済み株式の20.19%を持つ筆頭株主。洋上風車の施工や港湾土木に強みをもつ東洋建設のノウハウを経て、中長期的で成長が見込める洋上風力発電など再生可能エネルギー事業や官民連携事業を目指す。

 3社の統合が年間で計上されるインフロニアの23年3月期の売上高は7,306億円の見込み。東洋建設の23年3月期の売上高は1,820億円の見通しで、合算すると9,126億円だ。

 スーパーゼネコンは売上が1兆円を超える建設会社で、(株)大林組、鹿島建設(株)、大成建設(株)、清水建設(株)、(株)竹中工務店(非上場)の5社がそれに該当する。

 インフロニアが東洋建設を完全子会社に組み込むことで、ゼネコン準大手の前田建設は悲願としてきた売上高1兆円のスーパーゼネコン入りに王手をかけることができる。インフロニアがこのままで終わるはずはないのである。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

関連記事