2024年11月23日( 土 )

任天堂創業家、東洋建設にTOB、インフロニアのTOBは不成立(中)

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 任天堂創業家の資産運用会社、(一社)ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(以下、YFO、本社:東京都港区)が、マリコン(海洋土木)大手の東洋建設(株)に対してTOB(株式公開買い付け)を正式に提案した。YFOを率いるのは任天堂創業家の若き御曹司の山内万丈氏。狙いは何か。

前田建設と前田道路の壮絶な「親子ケンカ」

東京都千代田区 イメージ    インフロニアの誕生は難産だった。身内である前田建設と前田道路の壮絶な「親子ゲンカ」の末にこぎつけた。筆者はNetIB-Newsの「前田建設、前田道路の敵対的TOBに成功~子会社の道路は、なぜ、親会社の建設に徹底抗戦したのか」で、この「親子ゲンカ」を報じた。ひんしゅくを買ったこのケンカの意味が分からないと、前田建設のグループ再編に賭ける執念が理解できないだろう。振り返ってみよう。

 前田建設は20年1月20日、インフラの更新需要の取り込みには連携強化が必要として、持ち分法適用会社の前田道路へのTOBを表明。TOB価格は1株3,950円。発行済み株式の51%の取得を目指す。ほぼ同時に、前田道路は、前田建設が保有する前田道路の株式を取得して、資本関係を解消すると開示した。

 前田建設グループ内での「親子ゲンカ」が火を噴いた瞬間だ。建設業界のみならず、投資の世界でも注目される事件となった。

 前田道路は前田建設の子会社ではなかった。前田道路は1930(昭和5)年設立のアスファルト舗装工事の草分けである(株)高野組(その後、高野建設(株)に商号変更)。62(昭和37)年に会社更生法を申請した際、事業管財人に就任したのが前田建設だった。更生手続きは終結。68年に高野建設から前田道路に社名を変えた。

 前田道路が前田建設に徹底抗戦したのは、社長・会長を歴任した名誉会長・岡部正嗣氏がつくり上げた「独立独歩でいく」というプライドだ。株式時価総額は前田道路が前田建設を上回っており、TOBの反対表明には「市場からの評価が乏しい企業に経営されることを意味する」と辛辣な言葉を書き記した。

 岡部氏はもともと前田建設の副社長であり、92年に前田道路の副社長に転じ、94年に社長に昇格した。岡部氏が社長に就任した94年はバブル崩壊で建設業が不況に突入した頃だ。岡部氏は「1人も辞めさせない」と宣言して乗り切った。これで社員の信頼を勝ち取った。

 岡部氏は前田道路の好業績を支えた立役者であり、岡部以降にプロパー出身社長の流れをつくった”中興の祖”といえる人物で、今もなお「岡部道路」といわれるゆえんだ。

 岡部氏は二代目前田又兵衛氏の娘婿。二代目又兵衛氏の長男、前田建設社長・前田操治氏とは、義理の甥と叔父の関係だ。

 この間、高度成長期から集中して整備された道路やダムといったインフラの改修需要が拡大。一体受注を強化するため、ゼネコンでは鹿島や大林組が傘下の道路舗装会社を完全子会社化した。前田建設も前田道路への関与を強めてきたが、抵抗したのが岡部氏だ。

 「防波堤」の役割をはたしていた名誉会長・岡部氏が20年1月9日に81歳で死去。岡部氏の葬儀は1月19日に行われた。その翌20日、前田建設は前田道路にTOBを提案した。前田建設社長・前田操治氏は、一気に勝負に出た。

前田道路がTOB阻止に打ち出した「焦土作戦」

 親子ゲンカとなれば、前田建設が断然有利。前田道路の株式の4分の1を握る筆頭株主で、前田道路の首根っこを押さえているからだ。

 前田建設から株式の過半数取得を狙う敵対的TOBを受けた前田道路の経営陣は追い詰められた。どう対応するか。

 前田道路の取締役会では、TOBに対抗するためのホワイトナイト(友好的な買収を行う第三者)、逆TOB、MBO(経営陣が参加する買収)が検討された。だが、TOBに対抗するためには4,000億円以上の資金が要ることがわかった。投資ファンドが話に乗ったとしても、その資金のほとんどは前田道路の借金として残る。結局、断念した。

 対抗策が尽きかけ、最後に選んだのが、大規模配当という奇手だ。
 前田道路は20年2月20日、今期配当の約6倍に相当する総額535億円の特別配当の実施を、4月14日に開催する臨時株主総会に諮ると明らかにした。

 総資産の2割に当たる535億円もの特別配当の狙いはTOBの撤回だ。TOBの条件には「前田道路が資産の10%に当たる203億円超の配当をする場合、撤回する場合がある」と記されている。配当というかたちでお金が流出し資産が減れば価値に見合わない価格での買収になる。「減損リスクが高まり、TOBを撤回するかもしれない」と、前田道路は期待した。

 前田道路の策は、「焦土作戦」と呼ばれる買収防衛策の1つ。買収対象となった企業が、重要な資産(保有株式や不動産)や事業部門を手放して、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に領土を焼き尽くす軍事上の戦術名に由来する。

(つづく)

【森村 和男】

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