2024年12月23日( 月 )

任天堂創業家、東洋建設にTOB、インフロニアのTOBは不成立(後)

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 任天堂創業家の資産運用会社、(一社)ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(以下、YFO、本社:東京都港区)が、マリコン(海洋土木)大手の東洋建設(株)に対してTOB(株式公開買い付け)を正式に提案した。YFOを率いるのは任天堂創業家の若き御曹司の山内万丈氏。狙いは何か。

同業のNIPPOと資本業務提携

東京都中央区 イメージ    前田建設は矛を収めなかった。前田建設は2020年2月27日、この配当策を理由に、TOBの期限を従来の3月4日から12日に延長した。同日、前田道路は二の矢を放った。記者会見で、同業の(株)NIPPOとの資本業務提携入りを大々的に打ち出した。

 NIPPOは石油精製最大手ENEOSホールディングス(株)傘下の道路舗装業界最大手。空港や高速道路など官庁大型工事に強みをもつ。前田道路は業界2位で民間の小型工事を得意とする。道路舗装の1位のNIPPOと組むことで、前田建設を牽制する狙いがあった。

 前田建設はどう対応するか。TOBを継続するか、いったん撤回して戦略を練り直し、新たなTOBを実施するか。

 前田建設は、TOBを継続して強行突破を図る。インフラ更新需要を取り込むには、親子一体が必要という大義名分を掲げて、TOBに打って出たのに、財務リスクが高まるとして、手を引くわけにはいかない。

 前田道路は徹底抗戦したが、前田建設によるTOBは3月13日に成立した。買い付け上限を上回る応募があり、前田道路株2,181万株を861億円で買い付けることが決まった。前田道路株の所有比率(議決権ベース)は、TOB前の24.68%から51.29%に上昇し、取締役の選任権限を得る。

 前田道路の6月25日の株主総会で、徹底抗戦した今枝良三社長が退任、前田建設出身の今泉保彦氏が社長に就いた。

 前田道路を統合するため持株会社体制に移行。インフロニア・ホールディングスの会長に創業家出身の前田建設社長・前田操治氏が就いた。

 苦心惨憺して前田道路を傘下に収めた。東洋建設も買収して、インフロニアを軸とするグループ再編を成し遂げようというのに、YFOの横槍であきらめるわけにはいかないのだ。

YFOは対話型ファンドを買収

 ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)(東京都港区六本木)は、任天堂(株)の創業家である山内家の資産を運用するファミリーオフィス(個人資産の運用会社)である。

 YFOは20年6月、任天堂の山内溥元社長から相続した同社株を基に、孫の山内万丈代表(29)が立ち上げた。運用資産は1,000億円を超える。

 筆者はNetIB-Newsに「任天堂創業家のファミリーオフィス~相続した莫大な資産を元手に企業買収に乗り出す」を寄稿した。その後の動きを述べる。

 YFOは22年初め、米国の日本株ファンドのタイヨウ・パシフィック・パートナーズを買収した。タイヨウは01年設立の日本株ファンドで、中小型株を中心に30社以下に集中的に長期投資する。

 タイヨウは経営陣との対話を重視する友好的なエンゲージメントファンドの先駆けとして知られる。株主の立場から経営戦略に注文をつけたり、増配や自社株買いなどを求めたりする「物言う株主」とは一線を画す。運用資産は約4,000億円。

 そんなタイヨウを買収したばかりのYFOが、筆頭株主のインフロニアによる買収で波乱なく進むと思われたTOBに、突然横やりをいれた。YFOがTOBに参戦した真意はなにか。

旧村上ファンド系投資会社の後を追う

 注目されるのが旧村上ファンド系投資会社の動きだ。ゼネコン再編を狙い、投資会社(株)レノ(東京都渋谷区)が東洋建設株を買い集めていた。

 レノによる5%超の新規保有が明らかになったのは21年1月。その後、買い増しが続き、持ち株比率はインフロニアがTOBを発表する直前まで7.31%だった。

 TOBの発表で東洋建設株が急伸すると、すかさず保有株の3分の2を売却して、3月31日付の持ち株比率を1.89%に落とした。高値で売り抜けたのである。

 レノに代わって、東洋建設株を買い占めたのがYFOだ。

 『日刊ゲンダイDIGITAL』(21年7月6日付)は、関係者の話をこう伝えた。

〈万丈氏は、”村上ファンド”の村上世彰氏のようなファンドマネージャーに憧れていた。村上氏は現在、外部の投資家から資金を集めるのではなく、ファミリーオフィスという形態を取っています。万丈氏も、これを真似たのでないでしょうか〉

 投資家1年生の万丈氏は、村上世彰氏に憧れて、東洋建設株の買い占めに乗り出した。狙いははっきりしている。高値売り抜けだ。インフロニアが東洋建設を何としてでも完全子会社にしたい意図を見抜いている。前田道路の時とは異なり、東洋建設の経営陣はインフロニアのTOBに賛成している。

 YFOの意図が見えてくる。YFOが提示する1株1,000円を上回るTOB価格をインフロニアが提示すれば、YFOはTOBを取り下げ、インフロニアのTOBに応募して、高値で売り抜ける算段だ。さて、どうなるか。

(了)

【森村 和男】

(中)

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