2024年12月23日( 月 )

亡くなる直前の安倍元首相の気になる発言(中)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 日本でも今回の事件を受け、銃や爆弾の製造に関するような危険な情報にアクセスした人物を監視対象にする動きが出てくるはずです。その意味では、便利なはずのネット社会は自由が奪われるリスクと背中合わせのようにも思われます。

 そんな世界を震撼とさせた安倍元首相の暗殺事件ですが、亡くなる直前まで、安倍氏はさまざまな機会に気になる発言を繰り返していました。殺害された奈良市内での応援演説のような場では時間も限られており、応援する候補者を持ち上げるような内容が多いのですが、安倍氏が主役の講演会などでは、相当突っ込んだ自前の外交政策を語っていました。

 とくに、彼が力を込めたのは対中政策に関するものです。曰く「日本にとって最大の課題は中国の軍事的台頭である。中国の国防費は30年で40倍に増えている。結果的に、台湾への軍事的威圧が急増していることは承知の事実だ。今こそ、日本は中国との戦略的互恵関係の見直しが必要と思われる」。

対中政策 イメージ    2022年は日中国交正常化50周年です。1972年の田中角栄首相の訪中によって周恩来首相との間で新たな日中関係の1ページが開かれました。それ以来、尖閣諸島のような機微にわたる問題は「棚上げ」にし、経済合理性を重んじる関係強化を図ってきた両国です。その後、日本政府による尖閣諸島の国有化宣言がなされたため、両国関係には緊張が生じ、今日まで尾を引いています。とはいえ、最悪の事態を避けるため、両国は日中友好の前提は「ルールを守ることである」と合意したうえで、辛くも関係の維持を図ってきました。

 しかし、経済、軍事力を強化する中国は、南シナ海から東シナ海に至る広い範囲で自国領を主張し、実効支配を強めています。なかでも台湾への圧力行使は日に日に強まる一方です。中国軍機による台湾の航空識別圏への侵入が年300機から1,000機にまで増加しています。2022年に入り、月100機のペースで増えている状況だからです。

 こうした状況を念頭に置き、安倍氏は「日本は価値観外交を目指す」と声高に宣言しました。具体的には、「自由で開かれたインド太平洋」戦略というスローガンを掲げ、QUAD4カ国の連携を強化する方針を打ち出したのです。

 加えて、日本はアメリカ、イギリス、オランダとも合同軍事演習を通じて抑止力の強化を図っています。表向き安倍氏の主張の基本は日米同盟です。要は、打撃力はアメリカ頼み。そのうえで、自前の反撃力(敵地の中枢機能の破壊)を高める必要を訴えました。

 実は、ミサイル防衛には極めて高度な技術が必要でコストも高くなります。これまで、日本はアメリカの要求を受け入れ、高価なアメリカ製のミサイルやステルス戦闘機などをたくさん買い入れてきました。

 しかし、安倍氏の肝いりで、自前の国防力を強化するため、三菱重工に対し、射程900㎞に延ばすミサイルを開発することになりました。と同時に、スタンドオフに加え、潜水艦発射ミサイルの開発も後押ししています。そのためアメリカの軍需産業は大事な虎の子の顧客を失うことになる、と危機感を抱くようになりました。

 安倍氏曰く「ウクライナ戦争の教訓は①自衛力の強化②同盟関係の強化。同盟国のないのがウクライナと台湾の共通点」。安倍氏の認識では、「アメリカを除くNATOの軍事予算は35兆円。一方、日米合わせて5兆円は少ない」というわけです。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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