2024年12月23日( 月 )

技能実習生の支払い費用の実態(前)

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 出入国在留管理庁は7月26日、日本で働く外国人技能実習生が来日時に支払う費用負担に関する実態調査の結果を公表した。1993年に外国人技能実習制度が創設されて以来、初めての実態調査で、2021年12月〜22年4月の期間に技能実習生2,184人から回答を得た。

来日前に借り入れして支度金を準備

 法務省の20年3月27日の発表によれば、技能実習の在留資格で日本に滞在する外国人は、19年末時点で41万972人と40万人を突破している。出入国在留管理庁の調査によると、技能実習生の54.7%が、来日前、自国で支度金を借り入れしており、その平均額は54万7,788円だった。

送り出し機関や正規仲介者への手数料

 送り出し機関や正規の仲介者に手数料を支払った技能実習生は全体の83%で、平均額は54万2,311円だった。これはブローカーなどに対する不正な支払いではなく、正規の支払いである。国籍別ではベトナムが約68万円、中国が約59万円、カンボジアが約57万円、フィリピンが約9万円だった。

 それぞれ国の規定で支払い額に上限が定められており、国によって差があることがわかる。

技能実習生から徴収できる手数料の上限

 送り出し機関が技能実習生から徴収できる手数料の上限額は、各国の規定により厳格に定められている。

 近年、最も多く技能実習生を日本に送り出しているベトナムを例にあげてみる。在ベトナム日本大使館のホームページには明確な上限の記載がなされている。ベトナム労働・傷病兵・社会省 (MOLISA)の通知により、3年契約の場合は3,600USドル以下(1ドル135円換算で約48万6,000円)、1年契約の場合は1,200USドル以下(1ドル135円換算で約16万2,000円)の手数料額が定められている。

来日に必要なおおよその額

外国人技能実習生 イメージ    日本企業に入社して技能実習生として働けるようになるまでには、前述の各金額を準備する必要がある。ベトナム人技能実習生を例に挙げて試算すると、手持ち支度金として、少なくとも平均額である54万7,788円は必要で、次に、送り出し機関と正規仲介者への手数料として平均68万円が必要となる。そのため少なくとも合計122万7,788円が必要となる。

 月3万円の世帯収入があったベトナム人家庭を例に手持ち支度金の内訳をみていく。半年間の研修期間中は無給となるため、ベトナムの家族が生活するためには、少なくとも7カ月分の生活費21万円を借り入れなければならず、また本人も、日本に到着してから最初の給料が支給される2カ月後まで生活できる約20万円を借り入れる必要があり、これだけで合計41万円となる。準備する手持ち支度金の平均額54万7,788円との差額は、13万7,788円。各人の事情により、多少、支度金の借入額が前後したとしても、日本で働くためには上記の金額が必要となる。

留学生や技能実習生が負う債務への考え方

 留学生や技能実習生が来日時に負う債務について、債務の内訳をたしかめることなく、そのすべてがブローカーから搾取されている違法な債務だと即断するのは、偏見や無理があるのではないだろうか。

 現在、日本に在留する技能実習生や留学生の大半が、ブローカーに騙されて搾取されている者ばかりだとすれば、それは日本政府が解決するのではなく、ベトナム政府が解決すべき重要な問題である。だが、ブローカーに騙されて、多額の債務を負っている者ばかりであれば、はたして27万人超も技能実習生が来日するだろうか。

 三食付きの全寮制宿舎に入り、技術や知識を半年間の研修で受講する費用、ビザの申請取得や各種手続きの費用、家族の生活費や自身の支度金、正規の仲介者への手数料、なかには、これまでの借金返済の費用等々、技能実習生が来日するためには、少なくとも前述の約122万円が必要となる。しかし、借り入れしてでも将来の人生設計に役立つと判断すれば、国営銀行のアグリバンクなどから多めに融資を受けて支度金を準備したとしても、本人からすれば、返済に時間がかかるのは覚悟の上の必要な債務のはずである。

(つづく)

【岡本 弘一】

(後)

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