2024年12月22日( 日 )

ソフトバンク孫氏、「家康」引き合いに反省の弁 投資担当が大量離脱(前)

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 投資会社ソフトバンクグループ(株)(SBG)の2022年4~6月期決算(国際会計基準)は、純損益が3兆1,627億円の赤字となった。同社の四半期決算では過去最大の赤字で、国内の上場会社としても過去最大規模だ。人員削減やグループ企業の売却など大リストラに乗り出す。SBGは浮上できるか?

徳川家康が描かせた「しかみ像」が「今の自分の心境だ」

 東京都内で8月8日に開かれたSBGの決算説明会。孫正義会長兼社長が会見の冒頭でスライドを示し、「これが今の自分の心境」と紹介した。各テレビ局のニュース番組が、このシーンを大々的に報じた。

徳川家康の「しかみ像」
徳川家康の「しかみ像」

    スライドに映し出されたのは、徳川家康が描かせたとされる「しかみ像」だ。元亀3年(1572)10月、武田信玄は4万5,000の大軍を引き連れて上洛の途についた。家康は織田信長の援軍を合わせた8,000余を率いて、浜松の北方の三方ヶ原に討って出た。世にいう、三方ヶ原の戦役である。

 ここで徹底的に討ち負かされた家康は、わずかな従者と、追い迫る武田勢をけちらし、やっとのことで浜松城に逃げ込んだという。三方ヶ原の敗戦で意気消沈した家康の姿を描いた肖像画が「しかみ像」だ。家康は敗戦を肝に銘ずるため、この肖像を描かせ、後々の慢心の戒めとしたという。

 孫正義氏は

 彼(家康)は、自分のこの惨めな姿をですね、覚えておきたいと。私もソフトバンク創業以来ですね、これだけ大きな赤字を四半期で2回連続(出した)このことをですね、しっかり反省し、戒めとして覚えておきたいと」(テレビ朝日「グッド!モーニング」8月9日放送)。

 SBGは21年3月期に、株高を追い風に国内過去最大の5兆円近い純利益を出した。「大きな利益を出したときに有頂天になる自分がいたことが恥ずかしい」と、反省の弁を繰り返した。常に強気な孫正義氏が弱音を吐くのは、異例なことだ。

1年間に累積損益が7兆円吹き飛んだ

東京ポートシティ竹芝 イメージ    SBGは17年、世界中のベンチャー企業などに投資する10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」の運用を開始。人工知能(AI)などを活用する各国の新興企業への投資が経営の柱となる投資会社に大変身した。

 英半導体設計大手アームなど、傘下のファンドの投資先は473社に上る。投資先の価値を四半期ごとに評価して決算に反映させるため、SBGの業績は投資先の株価に大きく左右される。世界的なインフレを背景とする米国の急速な利上げと景気後退の懸念から株安が進むと、SVFが投資する企業の価値も下落した。

 孫氏は、未上場企業を中心に21年4月から9カ月間で5兆円近くを集中的に投じたことなどを挙げ、「もう少し厳選してちゃんとした投資をしていれば、これほど痛手を負わなかった」と語った(朝日新聞8月9日付朝刊)。

 SVFの累積的な損益は21年6月末に7兆円あったが、22年6月末には1,122億円にまで縮小。「ほぼゼロになった」(孫氏)。1年間で累積損益が7兆円吹き飛んで、ほぼ振り出しに戻った。孫氏は、当面は「守りに徹する」として、SVFで人員削減やグループ企業の売却など大リストラに乗り出す。

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 ドル箱だった中国IT大手アリババの株式を手放す。発行済み株式に占めるSBGの保有割合は、6月末時点の23.7%から14.6%に下がる。持ち分適用会社から外れるため、これまでの取引の含み益約4.6兆円を計上する。追いつめられた挙げ句の苦肉の策だ。

最側近のミスラ氏は自身のファンドを設立する

 米ブルームバーグ通信(7月7日付)は、「ソフトバンクGのミスラ氏、主要な職務を退き、新ファンド設立へ」と報じた。ラジーブ・ミスラ氏は孫氏の最側近の1人だ。

 ミスラ氏は14年にSBGに加わり、同社を世界最大かつ最も物議を醸すテクノロジー投資主体に変身させる役割を担った。SBGのハイテク投資ファンドから10兆円という他に類を見ない規模を抱え、ほぼ1社でシリコンバレーの企業価値評価を押し上げたが、投資判断のまずさからSVFが失速、SBGは創業以来、最大の赤字を出した。

 部外秘の情報だとして匿名を条件に語った関係者によると、ミスラ氏は最近、東京で孫氏と話し、自身の事業を立ち上げるために職務を離れる計画を伝えた。

 ミスラ氏は新ファンドのために中東の投資家などからすでに60億ドル(約8,150億円)余りを確保しており、同ファンドは複数の戦略を組み合わせて投資するという。元同僚のアクシェイ・ネヘタ氏もミスラ氏の新事業に加わる。

 ソフトバンクGのマネージメントパートナーのヤニ・ピビリス、ムニッシュ・バルマ両氏もミスラ氏のベンチャーに加わることについて話し合いをもったと、一部の関係者は述べた(前出のブルームバーグ)。

 投資事業を担う幹部が大量に離脱するという内容だ。

 8月8日の決算発表会見で、孫氏はこの報道を認めた。

 ミスラ氏は1号ファンドの最高投資責任者(CIO)を引き続き務める一方、2号ファンドは孫氏自身と10人のマネージングパートナーで運営することになり、ミスラ氏はサポート役になると述べた(ブルームバーグ8月8日付)。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

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