2024年12月23日( 月 )

中国の未来:共産党大会での習近平演説は何を示したのか(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 北京では16日、5年に1度の共産党大会の初日を迎え、習近平・党総書記による政治報告から大会が始まりました。5年前と比べると、2時間弱という短い演説でしたが、ゆっくりとした語り口には自信のほども見えました。しかし、これまでの成果を華々しく訴えた演説内容とは対照的に、中国各地では不穏な空気も漂っているようです。

ポンペオ前国務長官、24年の大統領選出馬も

中国 国旗 イメージ    一方、「台湾問題」も急浮上中です。習近平主席は1期目の就任当初から「台湾統合」を「中国の夢」と位置付けていました。となれば、3期目の間に「何としても統一を実現する」との決意を固めているはずです。必要に応じては「武力の行使も厭わない」と明言しているほどですから。

 しかし、ロシアによるウクライナ侵攻によって習近平主席は考え方を改めざるを得ない状況に追い込まれてしまいました。なぜなら、圧倒的な軍事力をもってすれば、ウクライナの首都を2週間で陥落させることはできたはずでしたが、プーチン大統領の思惑は見事に外れてしまったからです。

 欧米からのウクライナに対する武器や資金の提供によってゼレンスキー大統領は大国ロシアを押し返し、「自分はノーベル平和賞に値する」と豪語しています。となると、台湾侵攻に関しても、中国は二の足を踏まざるを得ないわけです。

 そんな中、先ごろ、台湾を訪問したアメリカのポンペオ前国務長官は、「台湾は独立国だ。アメリカは中国が武力行使した場合には、あらゆる手段で台湾を守る」と、改めて中国へのけん制発言を繰り返しました。前回は台北中心でしたが、今回は高雄や台南など南部に足を延ばし、半導体の生産拠点も熱心に視察しました。

 台湾では「最も台湾に友好的な政治指導者」と大歓迎されているポンペオ氏です。実は、共和党候補者として24年の大統領選挙に出馬する可能性も匂わせています。11月7日の中間選挙の結果次第ですが、万が一、トランプ前大統領の支持した共和党の候補者が思ったほど議席を増やせなかった場合には、自らが2年後の大統領選に正式に名乗りを上げる準備に余念がありません。

 台湾の民進党政権とすれば、ポンペオ大統領の誕生に向けて水面下での支援工作にまい進している模様です。また、米軍もCIAもロシアのウクライナ侵攻を事前に想定し、4年ほど前からウクライナ兵をアメリカに招き軍事訓練を施し、ロシア軍の動きを把握するために内通者の確保に取り組んできていました。そうした成功例を台湾にも応用しようとしているのがポンペオ元CIA長官なのです。彼の指導の下、「アメリカ台湾軍事訓練計画」が来年から本格化します。

「中国の夢」実現へ

 ところで、世界がくぎ付け状態になったのが英国のエリザベス女王の国葬でした。最期のお別れをしようと英国中から大勢の弔問者が詰めかけたものです。英国各地で家々には弔意を示す半旗や女王を描いた肖像画やのぼりが掲げられていました。また弔問する人々も英国の象徴であるユニオンジャックの小旗を手にしていたものです。

 しかし、そうした小旗やのぼりは誰が準備したのでしょうか?実は、「利に敏いこと」では世界一と異名を取る中国人でした。女王陛下の逝去のニュースが伝わるや1時間後には国旗の大量印刷が始まったのです。

 一番乗りを決めたのは上海郊外の印刷会社でした。2週間かけて昼夜の別なく、100人を超える従業員を総動員し、100万本を超える英国国旗を製造し、輸出したのです。国旗以外にも、エリザベス女王の幼いころから女王として中国を始め世界各国を訪問されたときの写真を印刷したポートレートや記念品を大量生産しました。

 中国企業はこうした国際的なニュースには至って敏感です。96歳という年齢から判断し、そのときは近いはずと虎視眈々と準備を進めていたとのこと。そのため、女王の逝去のニュースが流れると、その翌日には英国国旗の第一弾をロンドンに出荷しています。この中国企業の経営者曰く、「世界のニュースからは目が離せません。お祝い事でも悲劇的な出来事でも、必ずビジネスチャンスになります。社員には常に国際ニュースに目を向けるように言い聞かせています。」

 多くの英国人が女王陛下の逝去に涙したわけですが、その涙に便乗するかたちで大儲けに余念ない強かな商人がいるわけです。とはいえ、大儲けに結び付けるためには、どのような注文が飛び込んでくるのか、事前に目を皿のようにし、準備を怠らないことはいうまでもありません。

 一事が万事。習近平主席のDNAにも「強かな中国人魂」が息づいているに違いありません。若くして毛沢東時代の下放政策によって辺鄙な田舎に送り込まれ、全身が虫刺されで腫れあがった経験の持ち主です。今でこそ、毛沢東、鄧小平に並ぶ国家指導者と称されていますが、習近平主席の脳裏には「毛沢東の失敗を繰り返さない。自分の父親を葬った毛沢東を決して許さない。必ず毛沢東を越える」という固い決意が感じられます。

 毛沢東の立ち居振る舞いを彷彿とさせると思われていますが、そうした言動は神格化されている毛沢東を最大限に利用しているだけではないでしょうか。3期目を迎え、終身国家主席となれば、習近平が胸に秘めてきた「中国の夢」が現実に向かって大きく前進するでしょう。その危険性を最も深刻に受け止め、対策を講じようとしているのがCIAなのです。

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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