2024年12月04日( 水 )

「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の導入経緯と展望(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 西日本鉄道(西鉄)は、2019年3月23日、筑後地区の観光交流を促進させるため、通勤輸送車両の車内を改造してレストラン電車とした、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の運転を開始した。地域を味わう旅列車として、「地産地消」の考えの元、筑後地区や福岡県の食材だけでなく、筑後地方のさまざまな魅力を詰め込んで走る。車内の内装も、八女の竹を使用した竹細工や、城島瓦、家具のまち大川の職人がつくる家具など、沿線地域の伝統技術とクリエイターの感性を掛け合わせ、どこか落ち着く家のような空間を演出している。

 筑後地区の雰囲気を醸し出す車内で、食事をしながら旅を楽しむことができる、この観光列車が導入された経緯と今後を展望したい。

運行開始

 2022年8月までは、金・土・日と祝日、西鉄福岡(天神)から太宰府間を片道であるが1日1便、西鉄福岡(天神)~大牟田間を1日1往復していた。午前10時前に福岡(天神)駅を出発して、10時半頃に太宰府駅に到着する「カフェ太宰府の旅」。正午前に福岡(天神)駅を出発し、大牟田駅に午後2時半前に到着する「地域を味わうランチ筑後の旅」。午後4時前に大牟田駅を出発し午後6時過ぎに福岡(天神)駅に到着する「地域を味わう季節限定コース」として運行していた。2019年6月21日からは、「カフェ太宰府の旅」については、当日でも空席があるときに限り、西鉄福岡(天神)駅で当日運行分の販売していた。

 だが2022年9月1日より、コースおよび運行日程が変更となり、毎週木・金・土・日・祝日の運行になった。コースは、西鉄福岡(天神)から花畑駅で折り返して、西鉄福岡(天神)へ戻る「地域を味わうアーリーランチ」と、西鉄福岡(天神)~大牟田間(柳川駅で下車可)の「地域を味わうレイトランチ」となった。このコースは、途中の柳川駅で下車することも可能である。

写真4:魚料理の鮭
写真4:魚料理の鮭

    そして料理に関しても、従来は季節のピザがメインであったが、3人の新しい料理監修者による、フレンチのコース料理に変更になった。料理の内容が変更されたのは、2号車に設置された窯をピザ以外の料理にも展開したいためであり、筆者が乗車した9月29日には、提供された魚料理のメインである鮭(写真4)を、窯で焼いて提供していた。西鉄にヒアリングしたところ、「ピザを止めた訳ではない。さまざまな料理を提供して、お客さまの反応を見たい」とのことであった。

今後の展望

 レストラン観光列車は、テーブル席の関係から1名では参加できず、2名からになることが多いが、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」は、1名でも参加が可能であり、その面では敷居が低いといえる。

 運行を開始した当初は、主に朝食を提供する「カフェ太宰府の旅」や、夕食の時間帯にかかる「地域を味わう季節限定コース」も運行していたが、利用者のニーズは昼食の時間帯が多く、2022年9月1日からは、「地域を味わうアーリーランチ」と、「地域を味わうレイトランチ」の2つのコースとなった。

 車内で食事をとることをメインとした観光列車は、利用者の中心が中高年の女性層となるため、「景色を見ながら食事をしたい」という要望が強くなる。そのため景色が見られなくなる夜にかかってしまうと、魅力が減少することはたしかである。また午後6時ぐらいまでに運行が終了するようにコースを設定しないと、自宅で家事を行う関係上、参加は難しくなる。

 「52席の至福」というレストラン観光列車を運行する西武鉄道は、ディナーコースも運行しており、ブランチコースよりも価格を上げて販売している。西武鉄道では、ディナーコースは、バイオリンなどの生演奏を加え、料理のメインも牛肉にするなど、グレードを上げて対応しているが、福岡地区では価格を上げた対応は、難しいと考える。

 また福岡(天神)駅は、ホームの番線が3つしかないため、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」を長時間、停車させておくだけのホームの容量がない。しかし、改造費として、5億円も要したため、少しでも稼働率を上げなければならない。それゆえ夕方の「地域を味わう季節限定コース(アーリーディナーコース)」は、土日・祝日であれば、男性の人も利用してもらえる上、平日ほど夕方の時間帯も混雑しないことから、車両を停車させておく時間的な余裕もある。また、福岡(天神)駅まで運転するのであれば、いったんは近くの車両基地などへ回送して、そこで車内清掃を行い、午後7時30分頃に福岡(天神)駅を発車する、「ほろ酔いコース」として運転すれば、新たな需要が期待できる。

 レストラン観光列車は、「景色を見ながら食事をする」ことがウリであるため、昼間の時間帯の運行が中心となることもあり、利益率は決して良いとはいえない。だが、「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の車内で提供されるフレンチのコース料理は、あっさりとしていて、ハイグレードである。熟年の人でも胃がもたれることがないため、リピーターが付くように感じられた。鉄道事業者のなかには「ビール電車」「日本酒電車」を運行している事業者もあり、創意工夫で新規需要の開拓が可能といえる。

 「THE RAIL KITCHEN CHIKUGO」の今後に期待したい。

(了)

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