2024年11月23日( 土 )

世界遺産のまち・長崎市の責任〜観光客受入と保全対策

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 7月5日、ドイツ・ボンで開かれたユネスコ世界遺産委員会で、8県11市にまたがる「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」の世界文化遺産への登録が決まった。端島炭鉱、旧グラバー住宅、三菱長崎造船所関連施設など、8つの構成資産がある長崎市では各方面で喜びの声があがったが、同時に、世界遺産を担っていく責任が現実のものとなった。

長崎市にある8つの構成遺産

端島北東部、緑色の管でコンクリートを注入 (7月2日撮影)<

端島北東部、緑色の管でコンクリートを注入
(7月2日撮影)

 今回、世界文化遺産一覧表への記載(登録)が決定した「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」は、長崎市に、小菅修船場跡(通称「ソロバンドック」)、旧グラバー住宅、高島炭鉱、端島炭鉱、三菱長崎造船所関連施設がある。三菱長崎造船所関連施設には、第三船渠、旧木型場、ジャイアント・カンチレバークレーン、占勝閣があり、構成資産は8つ。三菱重工業(株)が、現在も作業で使用している第三船渠、ジャイアント・カンチレバークレーンといった稼働施設があることも特徴の1つだ。

 かねてより観光スポットであった旧グラバー住宅と端島炭鉱は、世界遺産登録前から多くの観光客が訪れており、今後、さらなる増加が見込まれる。とくに、2009年4月に上陸が解禁されて以来、見学者が年々増加している通称「軍艦島」こと端島は、今回の世界遺産登録に関する各種報道でも話題の中心にあり、その人気に一段と拍車がかかることは間違いない。2014年度の上陸見学者数は19万1,881人だが、上陸時に利用する桟橋の1日の使用回数が計10回という制限があるため、受け入れ可能な上陸見学者数は限界に近づいているとの見方もある。

 端島の桟橋の利用回数については、上陸見学ツアーの事業者を通じて迷惑料を受け取っている野母崎三和漁業協同組合との調整が必要。このほか、各構成資産のガイドや回遊ルート、駐車場などインフラ整備、三菱重工業(株)が所有する稼働施設を同社の協力を得ながらどのように見せるか(伝えるか)など、世界文化遺産を見学に訪れる観光客の期待に応えるには、さまざまな課題がある。長崎市は5月の連休頃から、JR長崎駅西側に取得した土地に観光バス58台分の待機スペースを用意。今年の夏休みシーズンの状況を見ながら今後の対策を検討する考えだ。長崎市議会では、世界遺産・観光客受入対策特別委員会が設置されたが、後手に回らない対策が望まれる。

保全コストに懸念

 世界文化遺産になったことで、単なる観光資源としてではなく、世界的に貴重な史跡として保全を行っていく責任も生じる。とくに懸念されているのは、端島の保全にかかる費用。今回、許可を得て、一般の立入が制限されている同島北東部を取材したが、建物の劣化は著しく、いずれ崩壊することは免れないように感じられた。一部で建物にコンクリートを注入する作業が行われていたが、本格的な保全対策はまだ行われていない。

端島の保全について語る田上市長<

端島の保全について語る田上市長

 端島を所有する長崎市の田上富久市長によると、「劣化抑制の視点で有識者の意見を聞きながら、建物の保存にかかる費用を検討している」という。有識者のなかには、「コンクリートの劣化の様子を見せるだけでも意義がある」という意見もあり、どの状態で維持するのかで意見が分かれるところで、概算の費用は11億から156億円までと、かなり幅が広い。

 しかし、最も問題なのは、「壊れるのが前提」とされている建物ではなく、護岸のほうだと田上市長はいう。もともと、端島は南北約320メートル、東西約120メートルの小さな瀬であったが、それを6回の埋め立てで約3倍の面積(約6.3ヘクタール)に拡張した人口の島。島の周囲は護岸堤防で包まれているが、外海の高波が激しく打ち付けるため、護岸が崩れれば、島そのものの存在自体が危うくなってしまう。田上市長は、護岸の維持は半永久的なものと考え、その維持費用を国と市で半分ずつ持たなければ、市単独では難しいとの考えを示している。

【山下 康太】

 

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