2024年11月23日( 土 )

白紙撤回の新国立競技場はどこへいく(後)

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 7月、批判が噴出していた新国立競技場を取り巻く状況が一変した。安倍首相の鶴の一声で計画の見直しが決まったからだ。安保法制で落ち込んだ支持率復活という見解もあるが、とにもかくにも前途多難な再スタートを切ることになった。とはいえ、いまだ誰がどう責任をとるのか不明瞭なままだ。建築そして都市計画という2つの視点から、責任の所在について見ていきたい。

デザインビルドへの道

新国立競技場<

新国立競技場

 新国立競技場の見直しが決まると、事業主体の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)に対し、コストが高すぎると批判された建築家のザハ・ハディド氏サイドが噛みついた。ザハ氏の主な論点は、3つある。

 1つ目は、急激な建設コストの上昇だ。オリンピック開催決定後、日本では建設需要が増加し、また円安により輸入材料の値段が上がった。2つ目は、実際に建設を行なうゼネコンを決めるとき、見積額を提示させず、十分な価格競争がないまま早期に選んでしまったこと。3つ目は、ザハ氏を含めた設計チームとゼネコンが一体となってコスト削減をしていくことを求めたが、それが許されなかったというものだ。
 ザハ氏の主張が本当だとすれば、コスト面の問題を大きくした原因は、デザイン、基本設計、実施設計、施工という工程がバラバラで進められ、文科省やJSCがコストマネジメントをきちんとできていなかった結果だということになる。

 このような大型物件の場合、設計施工一括方式、いわゆる「デザインビルド」(DB)という手法がとられるケースがある。通常は設計部門を持つゼネコンが基本設計から施工までをすべて手掛けることを指すが、デザイン会社が実施設計までゼネコン組んで行うこともある。
 目的はコスト削減と工期短縮だ。資材調達や労務費などはデザイン会社だけでは読みにくい。そこで資材・労務の実情と施工技術に詳しいゼネコンに最初から関わってもらえば、適切な見積もりと工期がはじき出せるという算段だ。欧米では比較的この手法が浸透しており、日本でも各自治体ではすでに導入されている。
 ザハ氏もこれをJSCに提言したのだろう。今回の計画の白紙撤回を受けて、DBによる新競技場の建設が再検討されているようだ。

 実は今年3月、東京オリンピックの全10施設のうち、特殊な技術を要する3施設をDBで建設することになった。もちろん、設計会社からすれば自分たちの仕事が奪われるから面白くない。設計業界団体の抗議もあったが、東京都はあくまで「五輪開催まで日数が限られており、工事の効率的な工期短縮とコスト削減のため、あくまで1つの方法として提案した」という。
 では、JSCおよび文部科学省がこのDB方式を一度でも検証したかといえば、そうした痕跡は少なくとも取材中には出てこなかった。

 業者選定の不透明さもさることながら、何としても2019年のラグビーワールドカップに間に合わせたいという焦りからか、こうした建築上の方式を比較検討しなかったのもコストアップの一因となったことは否めない。
 実はDBの提案は、新国立競技場の建て替えが決まった当初から、ゼネコンサイドからも出ていたようだ。業界団体の一般社団法人日本建設業連合会(日建連)がJSCらにDBを提案したが「門前払いだった」(日建連関係者)という。
 建築に疎いとされる文科省やJSCの能力の限界が露呈してしまった。彼らの手を離れ、今後は内閣主導で新国立競技場計画は進められることになる。

(了)
【大根田 康介】

 
(中)

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