2024年11月23日( 土 )

新国立競技場第三者委で抜け落ちた議論

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 7日、文部科学省で新国立競技場を検証する第三者委員会が開かれた。デタラメな競技場新築計画が明るみとなり、世論からの批判が噴出。過半数の国民が反対の声を上げるなか、安倍首相が急きょ「白紙撤回」をぶち上げたことを受けて、過去の経緯を検証するために第三者委員会が設置された。だが、そこではある議論が抜け落ちていた。

「都市計画の妥当性」はどこへ

第1回新国立競技場整備計画経緯検証委員会の様子<

第1回新国立競技場整備計画経緯検証委員会の様子

 第三者委の委員長には柏木昇東大名誉教授が選ばれ、委員にはメダリストの為末大氏のほか、民間の有識者らが就いた。今後検証する最重要項目として絞り込まれたのは、「なぜこんなに建設費が二転三転したのか」という論点だ。第三者委では不透明な建設費の真相を明るみにすることこそが、国民の声に応える重要な道筋だとした。
 たしかに、その点についてまったく異論はない。今年1月、事業主体の独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が設計会社らで構成される技術協力者から「実施設計に基づく概算工事費が3,000億円超」との報告を受けた。しかし、2月には文科省に対しJSCは「2,100億円程度になる」と低い数値を報告。その後、7月に2,520億円に再び膨らんだが、なぜこのように金額が右往左往しているのか経緯が判然としない。

 こうした事態に対し、委員からは「文科省とJSCのプロジェクトマネジメントが機能していない」という批判が相次いだ。だが、会議を聞いているなかで、すっぽりと抜け落ちていた議論があると感じた。それは「都市計画の妥当性」だ。

 時計を巻き戻すと、今回の新国立競技場が大きな社会問題となった第一歩は、著名建築家の槇文彦氏が「景観と歴史的文脈から新競技場を考えよう」と声を上げたことだった。そこから市民団体の結成へとつながり、政治家を動かした。
 そのときの議論の中心は景観問題だった。景観破壊は建築物の容積率と高さ制限の緩和から生じる。そのため、この地域は風致地区として一定度の制限が課せられていたが、東京都とJSCが「再開発等促進区」という大型再開発をできる都市計画をつくり上げた。これが新国立競技場の巨大さを制度的に保証するものとなった。

 ところが、なぜか報道や第三者委では建築費の推移ばかりに目が行き、都市計画の妥当性そのものを検証しようという声はなかなか上がらない。
 第三者委で文科省が提出した白紙撤回の経緯のなかで、「2012年12月にJSCと東京都が神宮外苑地区計画を策定した」という文言がなかった。さらに同省事務局が文章を読み上げていく際に、13年6月に「東京都は、国立競技場が所在する神宮外苑地区の新たな都市計画(規制緩和等)を公示」という一文を読み飛ばしていた。
 東京都とJSCによるこの都市計画が生きている限り、新競技場はまた巨大なものとなり景観を守れない可能性は十分にある。また、JSCが新たに入居する165億円の新築ビル計画もなくならないだろう。さらに神宮外苑の再開発が進めば、高いビルや商業施設などができ、そこに関わる地権者が丸もうけという構図は変わらない。そして、最初に反対の声を上げるきっかけとなった景観問題は、どこかへ置き去りにされるだろう。

【大根田 康介】

 

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