【イスラム短信】イスラム教と寄付
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日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)より、旧統一教会の寄付・献金が大きな政治・社会問題となっていることを受け、総合商社のイラク駐在経験者によるイスラム教の寄付に関する随想を提供していただいたので、共有する。
旧統一教会への寄付・献金が大きな政治・社会問題となっています。
イスラム教では、寄付はイスラム教徒(ムスリム)の義務となっています。しかし、旧統一教会のような問題・トラブルが発生したのを聞いたことはありません。寄付はイスラム圏の人々にとって、社会を円滑にしてくれる存在だともいえるようです。
喜捨(ザカート)とは
ムスリムには信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼という5つの義務*が課せられています。その一つが、「ザカート」と呼ばれる寄付です。ザカートとは「年に一度、個人の財産で1年以上使わずに保有していたものから、一定額を納め、必要とする人々や団体に分配するもの」(『イスラーム世界事典』、明石書店)です。
現代のイスラム教においては、国がザカート税として徴収するケースと、個人がモスクや公的機関に寄付するケースがあります。サウジアラビアのように一切の税金がなかった国でも、ザカート税だけは徴収されてきました。この税は、どのような基準で徴収・運用されているのでしょうか。
寄付金の算定基準
ザカートの算定・徴取方法はそれぞれの国・地域により違いますが、一般的には年間貯蓄の2.5%程度で、物納も認められています。ただし、すべての教徒が支払い義務を負っているわけではありません。
所有している財産のうち、生活していく上で必要な財産、あるいは巡礼のための準備金などはザカート税の対象外となります。決められた最低限度の財産に達しない人は、ザカートを支払う義務はありません。つまり、イスラム教のザカートにおいては、寄付をしたことで生活が苦しくなるとか、マインドコントロールされ多額の寄付を強要されるような事態は起きないのです。
ザカートの行方・共助
徴収・寄付されたザカートは、失業者・生活困窮者・寡婦・修行者など生活に困っているイスラム同胞を助けるためのみに限定して使われ、他の目的に使われることはありません。
イスラムが誕生する前のアラビア半島には、大家族制でお互いに助け合い・面倒を見る相互扶助の風習がありました。今でも地方に行くと、のどが渇いた通行人・旅人が冷たい水を飲めるように家の前に水が満たされた素焼きのツボが置かれているとか、自宅で宴会をする場合には多めに料理を作り、近所におすそ分けするなどの風習が残っています。
7世紀に誕生したイスラム教にもこの風習は採り入れられ、困っている同胞に手を差し伸べる相互扶助の精神はイスラム社会全体に根強く存在し続けることになります。イスラムには、豊かな者が生活に困っている人を救済するのは義務だとの考えが根底にあります。一方救済を受ける側は、イスラムの教えとして救済を受けるのは当然のことであり、遠慮することなく支援を受け入れる風潮があるようです。
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