栄光極めた組織・個人、2023年の行方は(1)~孫正義もビックリ!FTXの倒産とSBFの逮捕(前)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸暗号資産(仮想通貨)交換業の最大手FTXトレーディング(本社・バハマ)が11月11日、経営破綻しました。「暗号通貨の寵児」ともてはやされたものですが、設立から5年持たなかったわけです。債権者は10万人を超え、負債総額は数兆円に上ると言われています。暗号資産業界においては過去最大級の破綻であり、業界への信頼が大きく揺らぐことになりました。
FTXは2019年にサム・バンクマン・フリード(SBF)という、現在30歳の青年によって香港で設立され、その後バハマに拠点を移転。SBFは1992年生まれで、両親共にスタンフォード大学の教授で有名な税制の専門家であり、ことに母親は民主党の支援団体で活動をしてきました。
SBF本人はMITで物理と数学を専攻。一時期、ニューヨークで金融ビジネスのインターンを経験するのですが、自分の才覚を信じて、生まれ育ったカリフォルニアで起業し、大学の同級生だった中国人ゲリー・ワンのコネを生かして香港に移住しました。
そのときには同じく大学の仲間でニューヨークの金融会社でも同僚だったキャロライン・エリソンも行動を共にすることに。後に彼女はFTXのヘッジファンド「アラメダ」の社長になります。この3人を中心に、多様な暗号資産関連商品を開発し、世界中の投資家の関心を集めてきたのです。
著名なスポーツ選手や芸能人とスポンサー契約を結び、利用者の拡大に結び付け、短期間で世界有数の暗号資産交換業者に成長させました。CMには米大リーグで活躍中の大谷翔平選手も起用され、女子テニス界の花形、大坂なおみ選手も出資者に名前を連ねていたため、大谷も大坂も投資家から「詐欺に一役買っていた」と賠償責任を訴えられる有り様です。
FTXに投資していたソフトバンクの孫正義会長も寝耳に水に違いありません。何しろ、「未来のウォーレン・バフェット」とか「現代のJPモルガン」とまで人気を博していた「暗号通貨の帝王」がいとも簡単に破綻してしまったからです。SBFはユダヤ人の両親から典型的な頭脳明晰さとPRの巧みさを継承し、世界の投資家から膨大な資金を集めて、この世の春を満喫していたものです。
会社を登記していたバハマに大豪邸を手に入れ、若いスタッフ10人と共同生活。寝食を忘れて、仕事に没頭している姿をSNSなどで流していました。フォロワー数では1億人を超えるイーロン・マスクに肉薄する勢いを見せていたほど。個人資産は156億ドルと豪語し、コロナ禍で経営不振に陥っているスタートアップ企業への支援に潤沢な資金提供を売り物にし、話題を集めることで投資を拡大。
SBFの巧みな言説に惑わされたのか、若いころの自分を思い出したのか、孫正義氏も自らが率いるソフトバンクグループのファンドを通じて1億ドル(約135億円)を投資しました。しかし、FTXはあっという間に倒産し、SBFはバハマ当局に逮捕され、アメリカで裁判にかけられることになる模様です。
SBFの資産は最盛期には260億ドルに膨れ上がっていました。ところが、去る11月2日、状況が一変。暗号資産専門のニュースサイトがFTXの財務面の問題を指摘したことがきっかけとなり、信用不安が広がり、投資家が一斉に資金を引き上げ始めたのです。わずか9日で資金繰りに行き詰まり、米連邦破産法11章の適用を申請し、自己破綻。
その結果、SBFの資産はゼロに。SBFはバハマの警察に身柄を拘束されてしまいました。SBFはバハマの警察に保釈金を払って収監を免れようとしましたが、「逃亡の恐れが高い」との理由で保釈は叶いませんでした。
一方、「話題づくりの天才」と異名を取るイーロン・マスク氏ですが、ツイッター買収を画策していた際にも、SBFから資金提供の申し出があったと述べています。曰く「あの若造と30分ほど話したが、信用できないと判断し、断った。俺の目に狂いはなかった」。
ところが、孫正義氏は若いころの自分と重なるところを感じたのでしょうか、FTXの未来に賭けてみると即決。結果的に投資した1億ドルは水泡に帰してしまいました。当のSBFは「人を騙すつもりはなかった。資金管理がずさんだった。新たなビジネスで再起を図りたい。失った資金は何とか取り戻したい」と語るものの、後の祭りとしか言いようがありません。
とはいえ、前例のない巨大な詐欺事件であり、アメリカでの有罪が確定すれば、「115年間の刑務所暮らし」が待っているとも言われています。今回のFTXの破綻とSBFの逮捕によって、いわゆる暗号資産に対する警戒心が高まっています。その代表格であるビットコインの価値も急落中です。
そもそも、SBFは多くのメディアに登場しては、ゲーム感覚で「大儲け話」を吹聴していました。問題は、そうした「夢のような話」の裏付けがまったくないままにネット上で拡散し、大谷翔平選手のような有名人がCMにたびたび登場したため、一般の投資家のみならず孫正義氏のようなプロまで引っかかってしまったということです。孫氏は「1億ドルははした金」と大人ぶりを装っていますが、自らの選択眼を再度研ぎ澄ませる必要があるのではないでしょうか。
実は、FTXにおいては、その後も続々と不祥事が明らかになっています。たとえば、顧客からの預かり資産を流用し、グループ内で違法な資金管理を重ねていたことが判明し、米証券取引委員会(SEC)も内部調査に入りました。日本の金融庁も無登録営業をしていたFTXジャパンに対し、一部業務停止命令を含む行政処分を決定したほどです。
こうしたFTXの破綻は暗号資産の代表格であるビットコインへも大きな影響を与え、ビットコインの価格は急落し、1年前の約4分の1まで値下がり1万5000ドル台を推移するはめになりました。
さらには、SBFはCEO時代、アメリカの民主党に4,000万ドルの政治献金していたことも明らかになりました。そのうち、500万ドルを受け取っていたバイデン大統領にとっては心強い存在だったはずです。何しろ、これはジョージ・ソロス氏に次ぐ多額の献金額でしたから。その狙いはバイデン大統領を味方に付け、同時に暗号市場の規制を検討する委員会の所属議員への圧力だったものと思われます。
(つづく)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
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