2024年12月23日( 月 )

今年は半導体戦争が表面化か 米中台の緊張は臨界点に達する兆しも(中)

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ジャーナリスト
姫田 小夏

 米国には「中国が台湾の半導体に手を出す前にそれを阻止すべし」という議論がある。今や「半導体を制する者が世界を制する時代」となり、台湾をめぐる米中の対立は、半導体をめぐる攻防にステージを移した。「焦土作戦」という言葉が俎上に上る昨今、半導体産業から見た米中台の緊張は臨界点に達する可能性が出てきた。世界最大の半導体ファウンドリ(受託生産)である台湾積体電路製造股份有限公司(以下、TSMC)の動きから、2023年の米中台の動向と「台湾有事」の可能性を展望する。

半導体戦争はすでに始まっている

自動車 半導体 イメージ    昨年4月、日本ではTSMCの熊本工場(熊本県菊陽町)が着工した。多くの日本のメディアが同工場についてレポートしていたが、熊本が持つ立地や水資源の優位性に焦点を当てたものが多かった。

 一方で、ロンドンに拠点を置く『アジア・フィナンシャル』は、「TSMCが日本や米国にファウンドリを建設する計画は一見、事業拡大に見えるが、これは中国が台湾を侵攻した場合に供給が遮断される最悪のシナリオを緩和する方法だ」と報じた。そこにあるのは地政学的要素だ。

 米中の覇権争いの対象となるのは、携帯電話や電気自動車、さらには兵器にまで使われる「半導体」に他ならない。アメリカの前大統領、ドナルド・トランプ氏(共和党)は、米中貿易戦争を開始したが、2021年1月にジョー・バイデン氏(民主党)へ政権交代すると、米中貿易戦争は半導体戦争へと、より焦点を絞ったかたちで格上げされた。

 米中対立の震源地となる台湾は、半導体産業で世界市場シェアの63%を占める。またTSMCは10ナノ未満の高度なチップ製造で世界シェアの84%(20年)を占める。(数字は欧州アジア研究所)

 TSMCは現在、日本以外にも米国で120億ドル(約1.6兆円)の工場を建設し、24年には5ナノのチップを量産する予定だという。日本の熊本工場は86億ドル(約1.1兆円)の建設費用をかけ、同じく24年には22~28ナノのチップを生産開始する予定だ。

 こうしたTSMCの動きに対して、中国メディア『観察者網』は「米国はTSMCの最新かつコアな技術を米国や米国の同盟国に移転させ、製造業を再構築し、世界に台頭したいと考えている」と伝えている。焦土作戦を実行する前に、主要な技術を台湾から撤退させるのが狙いだという。

 一方、中国は台湾を統一することで台湾の半導体産業を組み込む狙いだ。中国メディア「兵工科技」は「中国の経済システムに台湾の半導体産業を積極的に統合する、『質の高い統一』とはこれを意味する」と主張する。

 中国には長江デルタや珠江デルタなどハイテク産業の集積地があり、大規模な半導体産業の開発が計画されている。また、国家プロジェクトともなれば、投資規模は数千億元、数兆元レベルに膨らむ。中国は半導体大国を目指しており、中国政府が発表した「中国製造業2025計画」によると、中国は2025年には半導体の7割の自給自足が実現するという。

 しかし、その道のりは平たんではない。半導体の売上高についていえば中国はわずか5%に過ぎず、米国の47%という世界最大の市場シェアには遠くおよばない(数字はSIA、「2021年米国半導体産業現状報告」)。半導体製造で後れをとる中国にとってTSMCは垂涎の的であることはいうまでもなく、統一とともにTSMCを取り込めば、中国は一気に世界の頂点に立つことができる。

 当然、米国はそれをよしとはしない。「中国が経済、技術、外交、軍事で脅威をもたらす」は党派を超えた強いコンセンサスとなり、中国を抑え込むための必死の努力が続いている。半導体技術の輸出制限や昨夏のペロシ氏の訪台、台湾への5年間で最大100億ドル(約1.3兆円)の軍事資金援助などがそれだ。しかしそれらは米中対立を煽るかのような動きともいえ、ドイツの多言語メディア『ドイチェ・ヴェレ(DW)』は、「米国の台湾支援は諸刃の剣」だとし、「台湾をより大きな紛争に引きずり込む可能性がある」と牽制している。

(つづく)


<プロフィール>
姫田 小夏
(ひめだ・こなつ)
ジャーナリスト。アジア・ビズ・フォーラム主宰。上海財経大学公共経済管理学院・公共経営修士(MPA)。著書に『インバウンドの罠』(時事出版)、『バングラデシュ成長企業』(共著、カナリアコミュニケーションズ)、『ポストコロナと中国の世界観』(集広舎)など。「ダイヤモンド・オンライン」の「China Report」は13年超の長寿連載。「プレジデントオンライン」「日中経協ジャーナル」など執筆・寄稿媒体多数。内外情勢調査会、関西経営管理協会登録講師。

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