2024年11月05日( 火 )

ジャベリンを抱えて静かに話す~アザーニュース(前)

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DEVNET JAPAN 顧問
前駐ノルウェー日本国大使
田内 正宏

 Net I・B-Newsでは、ニュースサイト「OTHER NEWS」に掲載されたDEVNET INTERNATIONALのニュースを紹介している。DEVNET(本部:日本)はECOSOC(国連経済社会理事会)認証カテゴリー1に位置付けられている(一社)。「OTHER NEWS」(本部:イタリア)は世界の有識者約1万4,000名に英語など10言語でニュースを配信している。今回は2022年12月28日掲載の記事を紹介する。

DEVNET JAPAN 顧問
前駐ノルウェー日本国大使
田内 正宏

 プーチンの侵略戦争はヨーロッパの平和を打ち砕いた。ウクライナでの戦争を通じて独裁国家ロシアが牙をむきその脅威が世界に明らかになった。ウクライナが甚大な被害を受けただけでなく、権威主義国家と民主主義国家の亀裂が顕在化し、今後長期にわたり核戦争の危険を含む火種をかかえることとなった。

 権威主義国家ロシアの脅威が「ニューノーマル(新常態)」と言われてから約1年が経ったが、恐れられたように、侵略者となったロシアの脅威は常に存在し、衰えることがない。 今後も危険と隣り合わせの状況が続きそうである。 侵略者がここで勝てば、永続的な平和はなくなる。

 ウクライナを支援するために西側諸国が支払うものは財政的、人道的、軍事的な、いわば金銭に換算できる援助であるが、ウクライナ人が支払う代償は血である 。権威主義政権が信奉する力がまかり通ることになると、民主主義国家ははるかに高い代償を払うこととなる。従って、永続的な平和を実現する最善の方法はウクライナが負けないように支援することである。

 米国のバイデン大統領は、ロシアがウクライナとの国境に部隊を集結させ、侵略の懸念が高まった昨年12月以降、同盟国ではないウクライナに米軍を派遣する考えは「ない」と明言し、米ロの直接的な軍事衝突を避けたい意向を強調してきた。開戦後も「第3次世界大戦はなんとしても避けなければならない」と繰り返した 。

ジャベリン
ジャベリン

    2022年4月21日、米国のバイデン大統領は、ウクライナへの対戦車ミサイル・ジャベリンを含む追加軍事支援策を発表した際、セオドア・ルーズベルト元大統領による外交上の名言「大きな棍棒を携え、静かに話す。」になぞらえ、「我々は『ジャベリンを携え、静かに話す』。それらを大量に送り込んでいる」と述べた。ウクライナ軍が首都キーウ周辺に迫るロシア軍の戦車や補給車両への反撃にジャベリンを活用し、首都制圧を阻止するのに大きな効果を発揮した。しかし、ウクライナにとってはそれだけでは十分ではなく、ゼレンスキー大統領は、米国が戦闘機などの攻撃兵器の支援をしないことに不満を感じていた 。

 バイデン大統領は当然のことであるがロシアの核使用の可能性を最も気にかけている。ウクライナの「防衛」を訴えても、戦争の「勝利」とは口にせず、「戦争に勝つことよりロシアを挑発しないことに関心がある」と米メディアから指摘されている。軍事支援も、核による

 報復のリスクを生じさせない程度にとどめている。これに対して外交・防衛関係の専門家は、「プーチンの核の脅しによって、米国のほうが抑止されている。」「ウクライナで核兵器が使われた場合に取り得る措置を今すぐ宣言すべきだ。核の悲劇を回避するため、強力な抑止力を回復させなければならない」と訴えている 。

 NATOのストルテンベルグ事務総長は、22年6月12日フィンランドのクルタランタで行われたフィンランド大統領との会合において、「NATOは戦争の当事国ではない。その基本的な使命の第一は緊密なパートナーであるウクライナの自衛権、国連憲章に規定された自衛権の行使を支援することである。その支援は軍事・経済・人道援助の各分野にわたる。ロシアの侵略以来NATOはその支援を増大してきたが、それは主権国家であり民主主義国家であるウクライナが存続するためである。それにはこの戦争を長引かせるという代償がともなう。しかし、(戦いを続けるか否かを)決めるのはウクライナだ。NATOの使命の第二は、戦争のエスカレーションを防ぎ、我々同盟国の人々を守ることである。紛争をあおるのでなく平和を保つことである」と述べた。NATOがウクライナのためにできることは①武器を提供してウクライナの自衛権を擁護することおよび②戦争のエスカレーションを防ぎ同盟国への波及を防ぐことと要約される。そして、それによって戦争が長引くとしても、戦争を継続するか否かはウクライナが決定することであるという立場を一貫させている。

 米国は、6月以降、射程が長く、精密な攻撃が可能だとされる高機動ロケット砲システムハイマース16基を順次ウクライナに供与した。高機動ロケット砲システムハイマースは多くのロシア軍の火砲や弾薬庫を破壊し、地上戦におけるロシア軍の各種壕を破壊した。ウクライナのレズニコフ国防相は7月25日、ハイマースを受け取って以降、ロシア軍の弾薬庫合わせて50カ所を破壊したと強調し、9月8日には、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長が米国の供給する高機動ロケット砲システムハイマースだけでロシア軍の標的数百か所に打撃を与えているとした。こうしてロシア軍の火砲・弾薬が減り、へルソンの奪還につながった。

 他方、ロシアのプーチン大統領は、9月30日、同国軍が占領しているウクライナ東部2州(ドネツク・ルハンスク)・南部2州(ヘルソン・ザポリージャ)の4州の併合を宣言する一方で、ウクライナでの戦争が思い通りに展開しなければ核兵器を使用すると威嚇している。

(つづく)

(後)

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