女性左官職人の誕生が社風を変えた　それぞれの得意を発揮し、質の高い施工を（中）

（有）原田左官工業所
代表取締役社長　原田 宗亮 氏

新しい発想が固定観念を突き破る（つづき）

    ──最近耳にする機会の多い「多様性」に通じます。

　原田　多様性を意識して行ったことではありませんでしたが、結果的にそのような状態になりました。さまざまな人が現場に入ることで初めて気づくこともたくさんあります。

　女性が現場に入るようになり、女性専用の更衣室や休憩室、トイレを新設しました。昔から事務職として女性社員が在籍していましたが、この必要性に気づかないままでした。また、職場整備に取り組んだことが若い男性社員の働きやすさにもつながっていたことは驚きでした。中堅以上の男性職人にとっては現場の隅で着替えを済ませるということは普通でしたが、若い男性社員のなかにはそれを指摘することはなくとも、抵抗感を覚える人もいたようです。そのため休憩・更衣室を設置すると、非常に喜ばれたのです。

　当社の場合、職人という同じ性質をもったコミュニティのなかにまったく違う目線をもった人材が入ってくれたおかげで、時には軋轢が生まれることもありつつも、他社にはない発想とそれを実現する技術を兼ね備えることができました。

　──社内制度やルールなどで変えたことはありますか。

　原田　代表的な例は「相談窓口」です。女性職人が5、6名に増えたとしても、過半数が男性職人ですので、「現場の当たり前」についていけなかったとしても口に出しにくい状況にありました。しかし、同じ女性同士なら悩みを話しやすい。この相談のハードルを下げるために1人の女性職人を相談窓口として意見を集約させ、会社の経営陣や現場のリーダーに伝達するというフローをつくりました。

　「これを社長に言っていいのだろうか」「要望を言ってしまったがために相手との仕事が揉めたらどうしよう」と考え、遠慮してしまいます。そのため、相談できる人・環境をつくることを意識しています。現場を共にしていますので、気持ちよく働くために安心できる社内ルールをつくっています。

　産休・育休については該当する人が現れたことから整備が進みました。明確な期間は設定されていません。建設業に属する当社の場合、現場は期間ごとのプロジェクトのようなかたちで進行しますので、戻ってくるタイミングで行われる現場に入っていただきます。事務職の10人のうち1人が休職するのとは少し違う感覚になるため、この意味では、復帰しやすい職業かもしれません。育休を取る期間は手が1つ足りなくなるため代わりの人を頼まなければいけなくなりますが、応援の方を呼ぶことができますので問題はありません。

　──女性職人が大変に思うことは何でしょうか。

　原田　産休・育休から復帰した方の場合は1年以上の期間が空いてしまう分、「リハビリ」が必要になります。毎日のように2～30kgのものを運んでいた時からブランクができてしまうため、以前の状態に戻るのは時間がかかるようです。

　男女という差がある以上、お互いに追いつくことのできない領域もありますが、それぞれがもつ「得意」に気づくと現場がスムーズに回ります。女性職人が生まれたばかりのころ、材料の運搬作業において女性も男性と同じ量を運ぼうと無理していました。もちろんその頑張りはありがたいです。

　しかし、現場をスムーズに進めるのであれば、作業工程を分解し、役割分担をする方が効果的です。筋力に自信のある人が材料を運び、器用さに自信のある人が養生を貼って準備をしておく。現場の連携が取れると高い品質のものを仕上げることができ、最終的にお客さまの満足度向上を図ることができるのです。

　今ではこのかたちが効率的だという共通認識をもつことができているのですが、当たり前になるまではかなり時間を要しました。

（つづく）

【杉町　彩紗】

＜COMPANY INFORMATION＞
代　表：原田　宗亮
所在地：東京都文京区千駄木4-21-1
設　立：1972年4月
資本金：4,800万円
売上高：（22/3）約10億円
ＵＲＬ：https://www.haradasakan.co.jp/

＜プロフィール＞
原田　宗亮（はらだ・むねあき）
1974年東京都生まれ。2000年に（有）原田左官工業所に入社、07年に同社の代表取締役に就任した。営業スタッフ・職人側からプランを提案可能な「提案型左官」を掲げている。女性左官職人の育成や技能講習会など、左官業界の発展のための情報発信も積極的に行う。