2024年12月22日( 日 )

楽天、不正請求で100億円損失、ガバナンスも倫理性も欠落

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不正請求で100億円損失、グループ利益は今期持ち直す見込み

楽天グループ イメージ    楽天モバイルの元部長らが同社に約300億円を不正に支払わせていたとされる事件で、同社の実質的な損害が100億円近くに上ることが報道されている。不正にかかわったとされるのは、楽天モバイルの元部長・佐藤友紀容疑者(46)、取引先で不正請求元の日本ロジステック(株)(東京都千代田区)の元常務・三橋一成容疑者(53)、基地局設置工事を楽天から委託されていた(株)TRAIL(東京都港区)社長の浜中治容疑者(49)の3人だ。

 2月15日の記事(「楽天G、3,728億円の赤字 モバイル事業への投資が重荷に」)でも報じたように、楽天モバイル事業は、2022年12月期決算で、営業損益:4,928億円の赤字を計上、他部門の利益を吹き飛ばしてグループ連結の最終損益:3,728億円の赤字を発表していた。

 この大幅な事業損失に関して、楽天の三木谷浩史社長は今後のモバイル事業の見通しについて、一連の基地局建設にメドがつきつつあることなどから、今後は年間1,800億円のコスト削減を行うと述べた。楽天は18年の基地局建設認可以降、急ピッチで基地局建設をすすめてきた。当初26年までに「4G人口カバー率96%」の目標を掲げていたところを、22年には5万2,000局を建設して、前倒しで目標を達成している。本年は建設ペースを落とすものの、年内6万局に拡大、人口カバー率を99%以上に達する見込みだ。この急ピッチな建設を可能にしたのは、上述の不正にかかわった企業などを通して事業を請け負った、多くの下請・協力会社があったからに他ならない。

楽天の倫理性が問われている

 楽天モバイルの元部長の佐藤容疑者が楽天グループに入社したのは18年7月、楽天モバイルへの転籍は19年10月であり、不正が発覚した22年までに年間100億円程度ずつ水増し請求をしていたことになる。基地局建設のスピードを最優先した結果、チェックに甘さがあったためと思われるが、大企業のガバナンス(企業統治)欠落がおよぼす影響は極めて大きい。

 不正請求を行ったとされる日本ロジステックは、不正発覚後の22年8月、楽天モバイルから裁判所に対して資産の仮差押えが申し立てられ、取引銀行4行の口座が凍結された。その結果、同月25日に予定していた売掛金入金のメドが立たなくなったことと、取引先への8月末の支払いが困難となったことにより、民事再生法の適用を申請するに至った。

 TRAILも日本ロジステックに対する多額の不良債権が発生したことで資金繰りが悪化、本年1月13日付で事業を停止し、破産手続開始申立の準備に入った旨が報じられている。

 日本ロジステックは常務役員が、TRAILは代表が不正の片棒を担いでおり、自業自得である。

 問題は2社に対する楽天の資産差押え申し立てなどによって、下請・協力会社が連鎖倒産の危機に追い込まれていることだ。すでに工事済み、稼働済みの基地局の工事費用が支払われず、下請・協力会社は窮地に立たされている。しかし楽天は何の罪もない下請・協力会社の苦境に対しては何ら手だてを講じようとしない。

 確かに法的に楽天モバイルは、不正を働いた2社の下請・協力会社に対して責任は生じないだろう。しかし、この事態は楽天のガバナンスの重大な欠陥が引き起こしたことに間違いない。楽天はCSR(企業の社会的責任)のページを高々と掲げて、そのなかでサステナビリティ(持続性)への貢献を主張している。そのCSRはこの問題にもおよぶはずである。まさに大企業・楽天の倫理性(エシカル)が問われていることを楽天は認識すべきである。

【寺村朋輝】

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