2024年11月24日( 日 )

カシオ計算機、創業家以外から初の社長にG-SHOCKを手がけた増田裕一氏(後)

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 創業家が否応なしに向き合わざるを得ないのが事業継承の問題だ。同族以外の社長を誕生させ、同族脱皮するかの決断を迫られる。

 カシオ計算機(株)は増田裕一専務執行役員(68)が4月1日付で社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格。創業家の樫尾和宏社長(56)は代表権のある会長に就いた。創業家以外から社長に就くのは初めて。だが、57歳から68歳へのトップ交代は若返りに逆行する。一体、何があったのか。

「四兄弟」の三男の長男・和宏氏が後を継ぐ

カシオ計算機 本社 イメージ    2015年6月、カシオ計算機は27年ぶりに社長が交代した。

 創業者の「樫尾四兄弟」の三男、樫尾和雄社長の長男の樫尾和宏・取締役専務執行役員が社長に就いた。和雄社長は代表取締役会長に就任、CEO(最高経営責任者)を兼ねた。

 和雄氏は電卓「カシオミニ」のヒットに貢献した。競争が激しい携帯電話事業から撤退し、近年はデジタルカメラ、デジタル腕時計、電子辞書など事業を多角化してきた。

 和宏氏は慶應義塾大学理工学部卒。91年4月にカシオ計算機に入社し、米国販売会社への赴任、新規事業の立ち上げに関与。経営戦略担当、DI事業部長などを経て、14年5月に取締役専務執行役員コンシューマ・システム事業本部長に就いていた。

 カシオ計算機は2008年3月期に売上高6,230億円を上げていたが、携帯電話事業の失敗で業績はジリ貧に陥り、一時は売上が3,000億円を割り込むまでに落ち込んだ。事業の多角化で再建に取り組み、15年3月期の連結売上高は前期比5%増の3,383億円、営業利益は同38%増の367億円と、2期連続の増収増益に回復した。

 新社長の経営課題は、新3カ年計画の最終年度の2018年3月期に売上高を15年期比1.5倍の5,000億円、営業利益を2倍の750億円とする目標を達成することだった。

和宏社長は「パワハラ」事件で社員の信を失う

 衝撃的な事件がメディアを賑わした。写真週刊誌『FRIDAY』(2021年3月26日・4月2日号)は2週にわたって、和宏社長の「パワハラ」音声データを報じた。

 これを受けて、情報誌『ZAITEN』(2021年5月号)が、『創業4兄弟を継ぐ「第2世代」の無能と暴走、カシオ「パワハラ和宏社長」で潰える同族支配』を記事にした。

 カシオ計算機の人事部課長は2019年4月、和宏社長から経営改革の一環として子会社の転籍制度に関するミッションを与えられ、20年4月に実施する方向で準備を進めていた。

 ところが、開始直前の3月末に和宏社長の態度が一変。「1年前のことは忘れた」と言い放ち、白紙に戻すように指示が下る。白紙撤回について、和宏社長は「私は認めていない。彼(同課長)が勝手にやったこと」と開き直る。 同課長が一連のパワハラ行為を告発した。

 〈レベルが低すぎなんだよ、バカじゃねぇの。上期中に死んでも終わらせてください。そもそも、あなたのこと信用できないんですよ。いま、みんなの前で信用できる言葉で私を説得してください〉
(FRIDAYの音声データより)

 カシオは「第2世代」に代替わりしたが、苦楽を共にした父親世代のような求心力はない。折からのコロナ禍で業績が低下すると、焦りが高じて社長自らパワハラを乱発したようだ。上場企業のトップとしてはあまりにお粗末すぎる。

「Gショック」の一本足打法から脱け出せるか

 カシオ計算機の2023年3月期の連結決算は、売上高は前期比4%増の2,630億円、営業利益は18%減の180億円、純利益は18%減の130億円の見込みだ。和宏氏が社長に就任したとき、目標に掲げた売上高5,000億円、営業利益750億円に遠くおよばない。

 事業は「Gショック」の一本足打法だ。時計事業の23年3月期の売上高は1,540億円、営業利益は245億円の見込み。売上高は全社の6割弱、営業利益は全社の100%以上を稼ぐ。だが、大黒柱のこの事業が苦戦している。

 成長軌道に戻すには「Gショック」に頼るしかない。社長・和宏氏は、中国という巨大なマーケットで「Gショック」の売り込みに勝負を賭けた。日本や欧州で腕時計「Gショック」の高価格帯モデルは好調だが、Gショックファンが多い中国でコロナの影響から大きく苦戦している。

 目論見は外れ業績は低迷。これが「Gショック」の立役者である増田裕一氏にバトンタッチした理由だ。増田氏が時計以外でも手腕が発揮できるかが問われることになる。

 カシオ計算機の経営は「四兄弟」の息子たちの第二世代に移った。会長となった前社長・和宏氏は三男・和雄氏の子息。哲雄取締役は四男・幸雄氏、隆司専務執行役員は二男・俊雄氏の子息だ。長男・忠雄氏の子息・彰氏はすでに引退し現在は特別顧問である。創業家のDNAは温存されている。

 父親の世代は「四兄弟」が手を携えて、町工場のカシオをトップ企業に押し上げた。第二世代は従兄弟同士の関係だ。父親たちのように、うまくいくことはないだろう。第二世代は「カシオミニ」や「Gショック」のような人気商品を生み出せるか。新CASIOの正念場である。

(了)

【森村 和男】

(前)

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