2024年12月24日( 火 )

【論考】社会はすでに変化している〜LGBT法案・福岡同性婚訴訟にみる現在の日本の姿(後)

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福岡同性婚訴訟 「違憲状態」判決はまずまずの結果(つづき)

 今回の判決について、LGBTQ+当事者である斧澤英城氏に話をうかがった。斧澤氏はこのように語ってくれた。

「正直なところ、他の地裁の判決も含めて、『こんなところかな』という感想をもっています。しかしながら、民間や地方自治体ではより積極的に、性別に拘らないパートナーシップに関する支援制度が整備されている環境にあり、また、その制度の利用者も増加するなかで、立法府や行政府は司法の判断をただ待つのではなく、三権のそれぞれの独立した機関として、結婚制度について考えてほしいです。」

 斧澤氏は2022年4月、福岡県パートナーシップ宣誓制度に基づき宣誓を行った。しかし、「パートナーシップ宣誓制度があるからそれでいい」というわけではなく、パートナーと生計をひとつにして支え合って生活している現状が社会のなかのひとつとして受け入れられる、そんな体制が整えられて欲しいと考えている。

若者世代にとってマイノリティは身近な存在

 筆者が今年気になったのは、岸田首相元秘書官の問題発言ではなく、むしろ岸田首相自身の発言だ。元秘書官の問題発言(2月3日)に先んじ、1日に開かれた衆議院予算委員会において夫婦別姓や同性婚について問われた際、「制度を改正するということになると、家族観や価値観、社会が変わってしまう」と回答したのである。

 この発言をどう受け止めるかは、人それぞれかもしれない。肯定的な発言として捉えられなくもないが、「変わってしまう」というフレーズに筆者は違和感をおぼえる。この言い回しからして、岸田首相はいわゆるマイノリティと呼ばれる人々と交流する機会がなかったのだろうかと思えてならない。

    今年25歳になる筆者が高校生のころ、カップルでTwitter共同アカウントを作成するのが流行していた。デジタルタトゥーになりそうだと、私自身はそのようなアカウントを避けるようにしていたものの、人生にはまことに不思議な出会いがあるものだ。ある時、ひと組の同性カップルのアカウントが目にとまった。アイコンには2人の女子高生の仲睦まじそうな姿。プロフィール欄を見れば、なんと近所に住んでいるカップルである。

 幸せそうなツイートの合間に、周りの目が気になったり、何と言われてしまうのだろうとおびえていたりと不安をにじませるものもあった。しかし、彼女たちのアカウントには、友人たちと思われるアカウントからの応援メッセージが並んでいた。それらが本心から来るものかどうか、本当のところは筆者には知るすべもない。ただ、少なくとも10年前なら同性カップルであることを公表しないし、周囲の人たちが応援の意を示すこともできなかったのではないかと思う。

 そして現在。SNSでは、LGBTQ+に限らず、何らかのかたちでマイノリティにあることをオープンにした人々が自ら情報発信を行っている。それは「ほかの人にはない個性」であり、時には逆境に立たされるなかでもこうして強い精神をもって戦う彼らの姿に、マジョリティの若者たちが彼らを応援したいという気持ちをもつきっかけを与えている。岸田首相のいう「家族観や価値観、社会が変わってしまう」は間違いではないかもしれない。だが、筆者に言わせれば、それは実は「すでに変わっている」のではないか。

 20年前、今のようなデジタル社会の到来を、いったいどれだけの人が絵空事としてではなく考えただろう。それまでには想定されていなかった犯罪など、問題が発生し始めて初めて、政治もようやく腰を上げていったというのが現実である。今まさに社会変革の真っ最中である。「想定されていないから」ではもはや済まされない。

日本社会に動き出してもらいたい

 このたびのLGBT法案について、(一社)性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法整備のための全国連合会(略称:LGBT法連合会)は6月13日、「『理解増進法』の衆議院可決に警鐘を鳴らす声明」を発表した。同会はそこで、当初の案から修正が重ねられていくなかで、当事者に寄り添うどころかむしろさらなる生きづらさを感じさせる内容になってしまっていることを指摘しつつ、LGBT法案の成立に反対を表明。参議院における審議の中止を求め、廃案とすることもやむを得ないとする姿勢を示している。

 国民と三権の間で認識のズレが大きく生じていることは明らかである。このような状況にあってなお、「想定されていない」として、問題解決を後手後手にしていっていいものか。日本国民の1人として、三権が動き出すことを強く希望する。

(了)

【杉町 彩紗】

(前)

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