韓国でひきこもりに月7万円支給 別視点から見る韓国の社会実験
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世界が注目する韓国の試み
韓国の女性家族部は4月、ひきこもり生活を送っている9歳~24歳の若者を対象に、毎月最大65万ウォン(約7万1,500円、0.11円=1ウォン)を支給すると発表した。支給の目的について同部は、「ひきこもりの若者が日常生活を取り戻し、社会に復帰できるようにする」としている。
韓国政府のこの試みは世界的にも注目を集めており、毎月500ドルの支給として各メディアで報道された。たとえば、イギリスのBBCも韓国のひきこもりに関する特集記事を掲載し、韓国政府の施策に絡めて、「韓国の若者の多くが、社会の期待に応えられず、社会に背を向け、孤立する道を選んでいる」ことを詳細なリポートで伝えた。また、多くの海外報道で“Hikikomori”という言葉がそのまま使われており、1990年代に日本で最初に定義された用語として紹介されている。
実際に韓国の若者がどれくらいひきこもっているかというと、韓国の保健福祉部によれば、19歳~39歳の韓国人の約3.1%にあたる推定33万8,000人が「社会的に孤立したひきこもりの若者」と見られている。日本社会との類似性が指摘される韓国社会でも、家族主義や学歴社会といった共通する社会構造が問題の根っことしてとらえられている。さらに韓国では受験競争が日本よりもずっと熾烈であると言われる。また、自殺率も深刻で、韓国統計庁の集計では2021年の10万人あたり自殺者は26人、日本は22年で同17.5人だ。そして、合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数に相当)で22年、日本はG7中イタリアと並ぶ最低水準の1.26だが韓国はそれをはるかに下回る0.78だ。日本でも自殺、少子化は社会問題であるが、韓国はそれらについて日本よりも過酷な現実があることが知られている。
今回の韓国政府の施策は、ひきこもった若者の社会復帰を支援する目的であるが、その実効性には疑問視する声が聴かれる。だが政策の建前上の本旨とは裏腹に、この政策は別の視点で今後議論の的になると思われる。
ひきこもってもいい社会はくるか?
先述の通り、BBCを始めとした各国のメディアが韓国政府の試みを報道しているが、BBCが先立つこと2013年、日本の若者のひきこもりを特集記事として掲載した際には、反響として世界中から同様の話が寄せられ、社会に対する若者の適応問題としての「ひきこもり」が、多くの先進国で見られる共通の問題であることがクローズアップされるようになった。
高度化した現代社会は、そのなかで生きる多くの人にとって、自ら積極的に社会の創造に携わる機会よりも、ひたすら受け身になって既存社会への適応が求められる機会が圧倒的に多い社会として、「適応」が問題設定される状況にある。
だが、社会への「適応」をめぐる議論は、今回の韓国の施策と同様に建前上は、「適応できない人を適応させる」という文脈で継続されるとしても、いずれは、適応できない人を許容する社会の仕組みづくりへ論点を移していくことになると思われる。というのも、社会に対する構成員の適応問題は、労働生産性の問題ともかかわって、全員労働参加を原則とする社会を維持するのかどうかという経済社会構造の問題の一角に吸収されていくと思われるからだ。
今回の韓国政府の試みは、将来的に変貌する社会制度の基礎づくりと捉えることもできる。本件をめぐる議論の行方に注目したい。
【寺村朋輝】
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