都市再開発や先端技術工場の建設など 旺盛な建設工事を支える人材育成が急務
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建設産業専門団体九州地区連合会
活況を呈する九州の建設業界で
懸念される人材不足と技術承継福岡市の繁華街を歩くと、あちらこちらで大きなクレーンが空に伸び、トラックが頻繁に工事現場に出入りしている光景を見かける。福岡市では現在、市が主導する「天神ビッグバン」や、JR博多駅を中心とした「博多コネクティッド」など再開発事業が盛んだ。再開発だけでなく、人口増加を見込んだマンションやビルの新築・増改築が行われている状況が一目でわかる。
建設業界が賑わっているのは、なにも福岡だけの話ではない。九州で印象的な地域の1つが熊本県だろう。台湾の半導体メーカーTSMCの熊本進出にともない、関連施設が周辺地域に次々と建設され始めている。シリコンアイランドと呼ばれるだけあって九州各地で半導体関連の工場の新増築が決定されており、すでに建築が始まっているものも多数ある。もちろん工場関係だけでなく、災害を見据えた公共施設の新改築など、いたるところで建設ニーズが高まっている。
そんな建築業界を支える地場企業が結集して組織されているのが建設産業専門団体九州地区連合会(以下、建専連九州)、その県組織が(一社)福岡県建設専門工事業団体連合会であり、両者の会長を(株)スギヤマ取締役会長・杉山秀彦氏が兼任している。
「福岡市での建設投資は活発です。建設業界全体としては好景気といえるでしょう。さらに、熊本の半導体関連の工場建設をはじめとした九州管内の建設業界が伸びていることは事実です」(杉山氏)。
建設業界全体が躍動していること自体は歓迎されるものだろうが、杉山会長をはじめ業界の関係者が懸念していることが、建設に関わる人材の不足だ。
「現場における人手不足は深刻さを増しています。九州はもちろん大阪など九州以外にも応援の依頼を行っていますが、その依頼に応えることが難しくなっているのです。また人材不足は若手の減少だけではありません。職人が高齢化し引退するなかで、ベテランから若手への技術承継も喫緊の課題となっています」(杉山氏)。
人材不足の解消を目指して
連合会が主導し講習会を開催人材がただ減少していく様子を黙って見ているだけでは人材不足の解消にはつながらない。そこで業界全体として人材育成を進めていこうという動きがある。2022年4月には、(一社)福岡経営者労働福祉協会が、建専連九州からの委託を受け、建専連九州の会員企業の新入社員向けに職業訓練講習を開催した。とび、型枠、防水や解体などの工事の専門企業から新入社員15名(うち女性1名)が参加。とび・枠型コース、解体コースに分かれて、それぞれ学科や実技を受講した。
杉山会長も挨拶で「ものづくりをする人がいないと世の中は成り立ちません。自分たちが社会を支えるという気持ちをもって頑張ってほしい」と若手社員にエールを送った。これらの講習は今後も続けていく予定という。
さらに進めているのが、近隣の工業高校を訪問し、業界説明や出前授業を行う「学校キャラバン」。連合会に参加する企業の社員が建築科、土木科や電気科などがある高校へ出向き、簡単な実技講習を行ったり、仕事について説明したりするというもの。高校への直接のアプローチには、業界への高卒新卒の数が減ってきているという危機感がある。従来は採用が少なかった大手ゼネコンが高校生採用に触手を伸ばしているほか、各地で高校の統廃合が進み、高校新卒者数が少なくなっていることも影響しているという。スギヤマでも福岡県内だけでなく、鹿児島や熊本などの遠方の工業高校にアプローチしているが、高卒新卒社の採用にはかなり苦労しているという。
「建設業のやりがいは、『このビルは自分が建てたんだ』と成果物に誇りをもってもらえること。私の会社でいえば過去に南極の昭和基地の整備を手がけたことがあるほか、最近では福岡市大名地区の再開発、病院や大学の建築に関わるなどしています。その時代、その地域社会においてシンボルとなるような建設物に関わってきましたが、そういった建設業の面白さを伝えて、1人でも多くの若者が業界を目指してくれたら嬉しいです」(杉山氏)。
待遇改善や機械化などにも積極的な取り組みが必要
従来、建設業には「キツい」「汚い」「危険」のいわゆる3Kに加え、さらに「給与が少ない」「休日が少ない」というイメージがあった。そうしたイメージを好転させなければ、若者が入社してきても、定着させることは難しい。
「連合会では、各専門工事業者が1%でも受注金額を上げられるように、九州地方整備局や各県との意見交換の場で待遇改善を常に求めています。連合会に参加している企業が一丸となって適正価格の実現に取り組んでいます。しいては工事従事者の給与アップにもつながっていくものと期待しています」(杉山氏)。
最近は大手ゼネコンや元請業者の働き方改革が進み、工事現場でも週休2日が浸透。人や車の往来が多くどうしても夜間や休日の工事が必要な現場を除けば、工事従事者の休日も増加している。また建設機械のハイテク化により、現場の省人化が進んでいることも、待遇改善にプラスになっているようだ。
さらに現場で働く安心感をさらに実感してもらうため、社会保険への加入、日給制から月給制への変更なども重要な課題だ。企業側にとっては費用負担となるが、長期的な視野に立って雇い主へ改善を促している。
「建設業には、再開発や建築物の工事の他にも、災害復旧工事などを通じて日本の国土を守るという役割があります。そういう重要な業界にどれぐらいの人が入ってきてもらえるか、さまざまな手立てを講じていかなければなりません。高校での学校キャラバン、連合会を挙げての講習会、元請などとの適正価格の交渉、工事従事者の待遇改善などに積極的に取り組み、若手の増加や技術承継などを進めていきたいと考えています」(杉山氏)。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:杉山 秀彦
所在地:福岡市中央区薬院1-6-5
ホワイティ薬院506
設 立:2003年10月
TEL:092-406-6776
URL:https://f-kendanren.or.jp
<プロフィール>
杉山 秀彦(すぎやま・ひでひこ)
1945年、佐賀県生まれ。大学進学で上京。70年、(株)杉山組(現・(株)スギヤマ)入社。79年、34歳で代表取締役就任。2010年、代表交代で会長就任。専門工事者の地位向上、待遇改善のため、複数の公職を務め、多岐にわたる活動を展開している。関連キーワード
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