北九州・福岡両市における政治風土の違い(1)
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年内の衆議院解散・総選挙は厳しいとの見通しもあるなか、衆議院福岡9区・10区は自民党の公認予定者がいまだに決定しない。水面下の動きが続いている。現在、両選挙区は旧民主系が押さえている。一方、福岡市を選挙区とする1区・2区・3区では、次の選挙に向けた動きはみられるが、いま1つ盛り上がりを欠く。この政治風土の違いはどこにあるのか、考察したい。
中選挙区時代の名残
「遠賀郡では今も、三原という意識が年配の方には強くあります」
こう語ったのは、三原朝雄元衆議院議員の秘書も務めた現職の地方議員。中選挙区時代、遠賀郡の芦屋町、水巻町、岡垣町、遠賀町の4町は、北九州市の若松区、戸畑区、八幡東区、八幡西区、直方市などとともに旧福岡2区(定数5名)に属していた。
この地域には筑豊炭鉱があり、1970年代までは旧総評(日本労働組合総評議会)の有力労組である炭鉱労組に支えられた日本社会党の強い地盤であった。北九州市域は新日鐵八幡製鐵所(現・日本製鉄)を抱えるなど北九州工業地帯に位置し、一方で通勤の利便性から福岡市のベッドタウンとしても人口が増えていった。今では麻生太郎自民党副総裁の地盤の1つだが、中選挙区時代の1983年には麻生氏は落選を経験している。
中選挙区制での最後の総選挙は、1993年7月に宮沢喜一内閣のもとで実施された第40回衆議院議員総選挙であった。この選挙において、反自民票が野党第一党の日本社会党ではなく、小沢一郎氏率いる保守系新党の新生党などに流れた。自民党は過半数を割り込んで下野し、いわゆる「55年体制」が幕を閉じた。
強固な労組の基盤
このときの衆院選では、麻生氏は10万1,080票、次いで朝雄氏の息子である三原朝彦氏は新党さきがけから立候補し10万,201票を獲得、北橋健治氏(後に北九州市長に就任)は民社党から立候補し9万7,123票を得ていずれも当選した。
三原氏は遠賀町が地元であり、事務所も置いてきた。この地域は同時に麻生氏にとっても地盤である。96年の第41回総選挙から小選挙区へと移行した際、自民党と新党さきがけは連立政権を組んでいたこともあって、三原氏が9区、麻生氏が8区と棲み分けを行った。
冒頭で紹介した「現在も遠賀郡は三原」との選挙区民の意識は、このときの名残が強くあるからだ。しかし、9区は新日鐵労組の強い地域でもあり、96年の選挙では民社党から新進党に参加した北橋氏が9万1,757票を獲得し、三原氏は(7万6,974票)で敗北した。
現在、基幹労連に加盟する旧八幡製鉄の労組は、旧福岡2区時代、民社党公認候補として宮田早苗氏を送り出していた。宮田氏の弟は元鉄鋼労連委員長・宮田義二氏で、民間主導による連合(日本労働組合総連合会)の結成に大きく寄与した。
そうした強力な労組の基盤があり、自民党にとっても手ごわい相手だったという。中選挙区時代、共産党や公明党も候補者を擁立し当選したが、1人しか当選しない小選挙区制の下では、共産党も当選できなくなった。
だが、北九州市の基幹産業であった鉄鋼業の衰退とともに、労組の勢いにも陰りが出てきた。2005年の第44回衆議院議員総選挙では三原氏が12万1,465票を獲得し、北橋氏に勝利した。北橋氏は10万6,738票を得て比例復活したが、07年の北九州市長選挙に立候補し、初当選した。
北橋氏勝利の勢いを受けて09年の第45回衆議院議員総選挙において、元外務省職員・緒方林太郎氏が民主党公認で12万2,815票を得て、三原氏を破った。この後しばらくは三原氏が議席を得たが、21年10月実施の第49回衆議院議員総選挙で、緒方氏は三原氏を再び破って再選をはたした。三原氏は自民党の73歳比例定年制にかかることから比例での重複立候補ができなかったため、議席を失った。
福岡9区における自民党支部長、公認予定者の選出問題は、ここに端を発している。次回、福岡10区の状況に触れつつ、福岡市との差異について考えてみたい。
【近藤 将勝】
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