【クローズアップ】進まぬ「建替え計画」 築40年超のサンセルコは再起できるか
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中央区渡辺通の複合施設「サンセルコ」は1979年3月に開業し、飲食店や小売店などの店舗とオフィスが数多く入居している。開業から40年以上が経過しており、その知名度は高い一方で経年劣化の進行が散見される。2018年には建替え計画の存在が報道されたものの、その後の進捗は見られないままだ。また、今年9月にはサンセルコ商業(協)が破産。サンセルコの名前を冠した法人の破産のニュースに注目が集まった。今回はサンセルコの現状に迫った。
商業施設では珍しい「区分所有」
サンセルコは福岡市中央区渡辺通の複合施設で、天神エリアから南に約1.3km、地下鉄渡辺通駅まで約300mという場所に位置している。地上10階、地下2階の構造で、B1階~4階までは主に店舗が、5階~10階まではオフィスが入居。開業から2005年まで(株)福岡放送が入居しており、屋外中継を行っていた。また、09年には「ゴールド免許センター」が開業し、優良運転者向けの運転免許更新センターとしても利用されている。そのほか「ホテルニューオータニ博多」が隣接し、4階まではテラスや連絡通路などで往来が可能となっている。
サンセルコのある渡辺通地区は、戦前より生鮮食料市場に隣接する場所となっていたほか、映画館や飲食街などが軒を連ねていたことから人流の多い場所となっていた。その後、第二次世界大戦では空襲の避難用地として、終戦後はいわゆるヤミ市として生活物資の売買が行われる場所として発展していった。しかし、戦後の土地使用関係の整理が難航し、周辺の改造計画は浮かんでは消えを繰り返し、近代化に乗り遅れた同地区での商業活動は次第に停滞していった。
そのようななか、1969年に都市再開発法が制定され、福岡市内の市街地における再開発事業の検討が開始された。渡辺通地区も例外でなく、権利者の「権利の種類」と「資産額」に応じ、再開発事業で完成するビルの敷地や床に関する権利が与えられる「権利変換」を導入することで、同地区は第一号の市街地再開発事業として都市計画が決定された。そして1979年2月に竣工、同3月に開業したのがサンセルコだ。
サンセルコは通常の商業施設と異なり、「区分所有」となっているのが特徴だ。通常、商業施設や複数のオフィスが入るビルといえば、賃貸での入居が一般的。しかし、サンセルコの場合はそれとは異なる。サンセルコの土地の所有権保存登記(所有権の初めての登記)がなされたのは77年4月(79年1月に更生)。当初の地権者と福岡市で所有権を形成し、翌1月以降、売買のかたちで福岡市の持分を法人や個人に割譲していった。現在では土地・建物を約180名が所有、約110名が借家をしている。ただ、2010年以降、新たに土地が売買された形跡はない。
1人ひとりの地権者が小規模でも多くの人数が集まることで大規模商業施設をつくることができる一方で、その意思決定が難航しやすいというデメリットがある。
第三セクターとしての運営
先述した通り、サンセルコは福岡市の再開発事業で、第三セクターによる複合施設である。サンセルコの運営に関わる主な団体は3社。
1社目はサンセルコ商業(協)(以下、商業協組)。1978年6月に設立されたこの組合にはサンセルコに入居する飲食店や小売店が主に所属しており、セールなどイベントを開催するなど、店舗を出店する事業者による法人となっていた。また、商業協組としてもテナント2床を区分所有し、賃貸を行っていた。しかし今年9月15日、商業協組は福岡地裁より破産手続き開始決定を受けた。その経緯については後述する。
2社目はサンセルコ商業・業務棟管理組合法人(以下、管理組合法人)。2007年11月に設立された団体で、分譲マンションの管理組合と同様に、サンセルコの区分所有者全員によって構成されている。
3社目はサンセルコビル管理(株)(以下、ビル管理)。福岡市の第三セクターとして1978年6月に設立され、管理組合法人から管理業務を受託し、業務支援やビルの管理を行っている。大株主は福岡市でその持株比率は30%、次いで(株)電気ビル、(株)福岡放送がそれぞれ13%、(株)ニューオータニ九州、(株)エフ・イー・シーが12%となっている。役員についても、代表取締役社長・重冨保徳氏は福岡市の前道路下水道局用地部長などを歴任した福岡市役所のOB。そのほかの取締役にも大株主の企業の重役が名を連ねている。
サンセルコを取り巻く複数の裁判
これらの事業者をはじめとして、近年は複数の裁判が起こされ、現在も係争中のものもある。直近2年間では以下のような動向が見られた。
(1)債務不存在確認請求事件(終結済み)
(原告:商業協組、被告:管理組合法人)この事件は、22年12月23日に判決が言渡された。原告である商業協組は管理費と特別修繕費を滞納しているとされていたが、それらの債務は時効の援用により一定額を超えて存在しないと主張していた。しかし福岡地裁は、2床のテナントについて、一部滞納があった一方で、一部支払いもあったことを指摘した。また、1つのテナントに関しては賃料の合意が一部変更され、未払いが発生。原告は古い管理費も支払ってきたが、差押さえを受けた後も約2年間時効の主張をしなかったため、被告の債務承認と支払いが合理的であり、時効の主張は許されないとした。この後、これを不服とした商業協組は控訴をしたものの、今年6月にはその控訴を棄却する判決が出されている。
(2)共益費等請求事件
(原告:管理組合法人、被告:商業協組)今年5月には、商業協組が所有している2床について共益費と修繕積立金を滞納しているとして管理組合法人は、滞納金とその遅延損害金など合計5,108万円の支払いを求める裁判を起こしている。また、これについては(1)の事件で債務の存在が認定、商業協組の控訴を棄却した判決が出たことも主張の根拠としている。
これに対し、被告代理人は商業協組がすでに破産していることを理由に請求の棄却を求めている。(3)商業協組の破産手続き開始決定
先述した通り、商業協組は9月15日に福岡地裁より破産手続き開始決定を受けた。負債総額は約5,000万円。
商業協組が区分所有していた2区画が長年空室となっており、これらの区画に対する共益費や修繕積立金の支払いが滞納されているとして、管理組合法人より提訴されていた((1)で先述)。先行きの見通しが立たないことから事業を停止。この措置となった。(4)債権執行
(2)の裁判を前に、債権の執行も行われていた。
22年6月9日には債権者を管理組合法人、債務者を商業協組、第三債務者を個人として、債権の執行が行われている。差押債権額が1,088万円に対し、取立累計額は191万円となり、897万円が残る状態となった。また、同日、別の個人を第三債務者として債権を執行。差押債権額が3,834万円に対し、取立累計額は394万円となり、3,440万円が残った。(5)その他の裁判
管理組合法人が提訴しているのは商業協組だけではない。テナント企業にも滞納している共益費と修繕積立金とその遅延損害金などを含めた8,373万円の支払いを求めている。この請求について被告代理人は、商業施設が衰退し続けているにもかかわらず、管理組合法人の歴代の代表理事はそれに対し手を打とうとはしていないために自社の事業に損害が生じており、各区分所有者に対する管理費・修繕積立金については免除または支払い猶予の方針が取られるべきであると主張している。
また、ビル管理もテナント企業や個人に対して冷暖房料等の支払を求める裁判を行っている。
ロードサイドの単体の店舗とは異なり、商業施設の場合はその施設自体に魅力がなければ内部のテナントまで足を運ばれにくい。サンセルコは日ごとに老朽化が進み、新規顧客の獲得のためのめぼしい営業活動がないままに今日まで至っている。魅力を欠いた状態がこのまま続くとテナントの収益も低下するため、共益費などの滞納につながるほか、テナントの空室が続くことで不動産賃貸業者の破綻の可能性も増幅させる。築40年を超えた今、注目されるのが「建替え計画」だ。
建替え計画浮上も音沙汰無し
18年10月には管理組合法人が通常総会で建替えに向けた決議を行っていたことが報じられた。しかし5年が経過した現在もその後の動きが見られない。ビル管理は「(建替え計画は)まったく進んでいない」と話すが、建替えを実行したいというスタンスは変わっていないという。
サンセルコの近隣で行われる再開発プロジェクトとして今年9月に発表されたのが「(仮称)渡辺通二丁目プロジェクト」だ。これは九州電力(株)(以下、九電)をはじめとして電気ビル、(株)十八親和銀行((株)ふくおかフィナンシャルグループ傘下)、福岡商事(株)を事業者とし、渡辺通二丁目地区においてオフィスビルをはじめとした建替えを行うもの。渡辺通二丁目エリアは九電の本店のある場所。計画地とされている現在の十八親和銀行が入る「十八ビル」をはじめとしたエリアで、25年の着工を目指している。このプロジェクトの事業者の1人であり、ビル管理の大株主の1人となっている電気ビルはサンセルコの8、9、10階を区分所有しており、この3つのフロアを「電気ビル別館」としている。このフロアには西日本技術開発(株)や電気ビルなど、九電子会社が多く入居するほか、4階~7階のフロアにおいても九電との取引のある企業が多く入居している。サンセルコの意思決定に深く関わる事業者によるプロジェクトが始動するということで、サンセルコもこの流れに乗りたいところだ。
建替えを行う際には所有者の意思確認が必要だが、その合意形成の難易度は高い。1983年に「建物の区分所有などに関する法律および不動産登記法の一部を改正する法律」が改正、翌84年1月より施行されたことで共用部分の変更や規約の変更に求められていた合意の数が減少した。これにより建替えに乗り出すハードルは下がったものの、建替えにともない営業活動に支障が出ることが多少なりとも避けられないサンセルコの場合、このラインすらも満たすことができない可能性もある。天神ビッグバンで天神界隈がその色を変えていくなかで、サンセルコもその一端に加わることができるのか。辛抱強く合意形成に取り組む必要がある。
【杉町 彩紗】
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