2024年11月24日( 日 )

「戦後70年談話」、韓米日の学者の分析(前)

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 安倍首相の「戦後70年談話」をめぐる学界の評価が、出そろってきたようだ。批判する談話は朝日、毎日、西日本新聞などを読めば、いつも書いてある。ここでは、評価するコメントを韓国、米国、日本の順で紹介したい。

 

安倍談話の問いに韓国人はどう答えるか?

 まず、韓国の李栄薫・ソウル大学教授(韓国経済史)である。彼は「韓国人、あなたは何者か」と問いかける文章を月刊誌「未来韓国」に掲載した。

 日本の安倍晋三総理が発表した「戦後70年談話」は韓国政府と韓国人に問うている。「あなたたちは何者か」。安倍談話を何回も精読した結果、私はこうした質問に辿り着いた。安倍談話は、形式上1995年の村山談話、2005年の小泉談話を継承している。単語の駆使とか文章の流れで以前の談話を底本としている。ところが三倍も長くなった談話のあちこちで以前の談話の重要部分を取り消している。

 彼はいつも本質的な話をする、勇気のある学者だ。私は韓国外国語大客員教授としてソウルにいた数年前、彼の「大韓民国の物語」を読んで、日本の知人に紹介し、佐賀大の先生に翻訳してもらった。文藝春秋から出版された。韓国のラジオで話した内容なので、わかりやすい。韓国に関心のある日本人は、ぜひ読まれた方が良いと推薦する。
 彼は今回、「未来韓国」で次のように書いた。

 安倍談話は19世紀の帝国主義時代に対する回顧から始まる。西洋は圧倒的技術力と軍事力で全世界を植民地として分割した。植民地化の危機感から、日本はアジアで唯一立憲政治を立てて独立を保つことに成功した。露日戦争で日本が勝利したことはアジアとアフリカの人民に勇気を与えた。このように、安倍談話は日本の韓国併合を歴史の避けられない選択だったと正当化している。

 安倍は、1910年の韓国併合は日本が謝る問題ではないことを明確にした。安倍談話の最後の文章は、私の頭を鈍器で打つようだった。(中略)「韓国政府の甘えはこれ以上受け入れない。私たち日本の20世紀の歴史に対する理解はこのとおりだ。君たちの歴史的アイデンティティは何なのか。果たして私たちとともに自由、民主主義、人権の基本的価値を共有する国なのか」。韓国人の肺腑を抉るような本質的な質問だ。

 返す刀で彼は、朴槿恵大統領の「光復70年演説」を批判した。

 激動の歴史に対する国ごとの記憶はそれぞれの境遇が異なるから決して同じであるはずがない。和やかな顔で互いの記憶を尊重し、視線を共に未来に合わせなければならない。歴史の解釈を巡って争う外交ほど愚かなこともない。それは、ある象徴だけで統合が可能な部族社会に固有なものだ。自由と独立の人間にとって、歴史とは人間の賢明さや愚かさ、勇気と卑怯さを学ぶ省察としてあるだけだ。安倍談話の一節を借りれば、歴史は実に取り返しのつかないその時代人の苛烈な選択だった。韓国はまだ部族社会なのか、あるいは自由、民主主義、人権の基本的価値が尊重される社会なのか。安倍談話が投げかける問いに答える番だ。

(つづく)
【下川 正晴】

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授を歴任。2007年4月から大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp

 
(後)

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