増加するインバウンド、観光地は「一極集中」から「分散」へ

（株）西日本日中旅行社

　──2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症が5類に移行したのを経て、国内旅行はどのように変化していますか。

　治田敏氏（以下、治田）　コロナ禍では「Go to トラベル」などの旅行支援策がとられ、人々は比較的安価で国内旅行を楽しむことができました。現在はそういった支援策は終了しましたが、国内旅行の需要は依然として増加傾向にあります。また、最近は社員旅行も回復してきました。その背景に、円安の影響で海外に行きづらくなったことも関係しているのではないかと思います。

　──直近における海外からの観光客の特徴を教えてください。

　治田　中国人観光客は、東京電力福島第一原発の処理水の問題の影響で比較的少ないままですが、直近ではベトナムやタイ、マレーシアなど、東南アジアの旅行者の増加が顕著です。

　東南アジアについては、もともとはベトナムやインドネシア、フィリピンなどから技能実習生として来ている方が多かったです。現在は観光のために来る方が多くなっています。現在日本を訪れている東南アジアの方々は富裕層というわけではありません。彼らの訪日が増えているのは、日本以外のアジア諸国の生活レベルが著しく上昇しているためです。いずれにせよ、今後も訪日外国人観光客はますます増加していくでしょう。

　──インバウンドが急速に増加していけば、日本国内で良くも悪くも様々な影響が出てくると思います。

　治田　処理水問題などもあり停滞している中国人観光客ですが、在中国の日本大使館・総領事館は23年6月から中国人向けに観光目的の電子ビザを発給し始めています。これにより、訪日のハードルが軽減されました。ヨーロッパやアジア諸国などからの訪日外国人が増加の一途をたどる状況のなかで、中国人観光客がコロナ禍以前の水準に戻れば、オーバーツーリズム（観光公害）がさらに深刻になることは避けられないでしょう。

　私自身、通勤時にいつも利用しているバスが訪日外国人でいっぱいになり、何度か乗車できなかったことがありました。多くの観光客が集まる京都では、交通インフラにより深刻な混乱が生じているそうです。宿泊施設や飲食店などで人手不足や施設内の混雑などにより接客などの対応が不十分になれば、観光客の満足を損なうことが懸念されます。また、観光地では訪日客に対する違法な白タク（※）行為も増えてきているといいます。
　そのような状況下は、観光客と観光地の方々の双方にとってマイナスとなるため、オーバーツーリズムの対策は急務であるといえます。

（※）国から営業許可を得ていないにも関わらず、金銭を受け取る目的でタクシーとして人の運送を行う違法行為。 ^

　──オーバーツーリズムにどのように対応していけばいいでしょうか。

　治田　現在観光客が多く訪れている地域は、首都圏など集まるべくして集まる地域もあれば、由布院などのようにプロモーションに力を入れた結果、多くの観光客が集まるようになった地域など様々です。行政や自治体などが誘致に力を入れている一方で、宿や飲食店を運営している事業者サイドの受け入れ体制が追いついてないというギャップが生まれている地域もあります。

　まず、徹底して取り組むべきことは観光地の分散化でしょう。「九州にきてください」などといった、各地の具体的な魅力のアピールを伴わない誘致では、既存の観光地に観光客が集中する状況を変えられきません。観光地としてのポテンシャルがあるものの集客に関してはまだ不十分な地域などを、もっとPRしていく必要があると思います。

　インバウンドを含め、多くの観光客が地域を訪れることは、観光客、地域住民の双方にとって良い影響をもたらしていくものだと考えています。多くの地域に観光地としての可能性を見出し、オーバーツーリズムに対応できる策を講じていくために、行政や自治体がこの問題と真摯に向き合い、地域住民との連携を図っていくことが重要です。

【立野　夏海】

＜COMPANY INFORMATION＞
（株）西日本日中旅行社
代　表：治田 敏
所在地：福岡市博多区冷泉町5-32
設　立：1989年8月
資本金：1億円
ＴＥＬ：092-283-8989
ＵＲＬ：http://www.nnr-fuk.co.jp

＜プロフィール＞
治田　敏（はるた・さとし）
1949年生まれ。北九州大学卒。貿易会社を経て、日中旅行社に入社。89年の天安門事件を機に（株）西日本日中旅行社を設立。中国専業の旅行社としての長きにわたる交流により、中国への深い見識をもつ。