2024年12月22日( 日 )

鉄道事業再構築協議会と芸備線の備後庄原~備後神代間の活性化(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 芸備線は広島~備後神代間を走行する路線であり、広島県と岡山県に跨っている。そのなかでも、備後庄原から備後神代間は、1日当たりの輸送密度が48名と極端に低いことから、日本で最初に「鉄道事業再構築協議会」が設置された。広島県と岡山県、庄原市と新見市だけでなく、国やJR西日本が加わって、芸備線の活性化を目指すか、バスへの転換を目指すかを、原則として3年以内に結論を出すことが求められている。芸備線は、長大なローカル線でもあることから、バス化してしまうと沿線地域に与える影響が大きい。鉄道として活性化させる方法を模索する。

「鉄道事業再構築協議会」の設置

芸備線    改正地域公共交通活性化再生法(以下、再生法)が2023年10月から施行された。その背景として、日本が人口減少社会に突入したこと、長期的な利用者の落ち込みに加えコロナ禍による外出自粛もあり、地域公共交通を取り巻く状況が年々悪化していることがある。とくに一部のローカル鉄道は、鉄道が持つ大量輸送機関としての特性が、十分に発揮できない状況にある。コロナ禍は、今までローカル鉄道などが抱えていた問題を10年程度、前倒しにした。

 ローカル鉄道の再構築に関する仕組みの創設・拡充として、最初に自治体か鉄道事業者からの要請に基づき、関係自治体の意見を聴く。その後は、国土交通大臣が組織する「鉄道事業再構築協議会(以下、協議会)」を創設する。この場合、国は協議会の開催、調査・実証事業などに対して支援することになる。国が関与することで、鉄道事業者と沿線自治体の距離を縮めることができる。

 また協議会では、鉄道輸送の維持・高度化ばかりではなく、バスなどへの転換を図ることで、利便性・持続可能性の向上を図る方針が示されることもある。いずれの場合でも、協議会は再構築方針を作成することになる。そして国は協議が調うよう積極的に関与するとしている。

 再構築方針などに基づいて実施する再構築事業を拡充し、路線の特性に応じて鉄道輸送の高度化を実現する場合は、国は国土交通大臣から認定を受けた同事業により、インフラ整備に取り組む自治体について、財源面で社会資本整備総合交付金などにより支援するとしている。

鉄道事業再構築事業の概要と再構築協議会

 鉄道事業の継続が困難か、困難となる恐れのある旅客鉄道事業を対象としており、地方自治体と鉄道事業者が共同で再構築事業計画を作成し、地方自治体が支援することで鉄道事業者の経営改善を目指すとしている。

 ローカル線をめぐっては、利用者が激減した路線・区間がある一方、廃線を懸念する沿線自治体とJRの溝が埋まらず協議に入れないケースが多い。そこで国が協議会の設置を可能とする再生法が2023年4月21日に成立し、同年10月1日に施行された。

 国土交通省は、1日当たりの輸送密度が1,000人未満の路線や区間を優先して、協議会の対象とする方針であり、鉄道事業者か自治体の要請に基づいて設置する。協議会を開いているときに1日当たりの輸送密度が1,000人を超えても、協議会が解散にはならない。「輸送密度1,000人未満」というのは、あくまで目安であり、1,000人を超えていても、協議会を開催することも可能である。3年を原則に協議し、設備投資を行って施設やサービスを高度化させ、鉄道として存続させるか、バスなどに転換するかを決める。

 この場合も、3年を経過しても議論が平行線になる場合もあるが、かつての国鉄再建法のように、鉄道事業者が一方的に鉄道を廃止することはできないし、3年を超えても協議することも可能である。いずれの場合も、設備投資が必要となるが、その費用を国が支援する。

 鉄道事業再構築協議会の第一号になったのが、芸備線の備後庄原~備後神代(新見)の68.5kmである。同区間の輸送密度は、JR西日本が発足した1987年度当時570人だったが、沿線の過疎化や少子化の進展、高速道路の整備に、JR西日本の減量化ダイヤの繰り返しや、徐行区間の増加などによる「負のスパイラル」も加わり、2019年度の輸送密度は48人と会社発足時の1/10以下にまで減少した。

 その結果、かつて「日本一の赤字ローカル線」と言われた北海道の美幸線並みの輸送密度となり、全国でも有数の低輸送密度区間となった。そのなかでも、備後落合~東城間の輸送密度は1日当たり11人程度であり、100円の収入を得るのに必要な経費が、25,000円以上も要する大赤字区間である。

 国鉄時代の美幸線が、100円の収入を得るのに4,800円程度も要する大赤字の線区であったが、芸備線の備後落合~東城間は美幸線以上の大赤字区間になっている。

 芸備線は、起点が広島であり、終点が備後神代であるから、広島県と岡山県に跨っている。芸備線のなかでも、備後庄原~備後神代間の利用促進策を話し合うため、協議会の設置が可能となる改正鉄道事業法が施行される以前の2021年8月から、広島県・岡山県の両県に、庄原市と新見市の両市、そこへJR西日本も加わり検討会議を設けた。

 だがJR西日本は、2022年5月に存廃を含めた議論に、決着を付けることを要請した。JR西日本が拙速に結果を求める対応に、沿線自治体は廃線を警戒して検討会議の開催に消極的だった。その後は、広島県・岡山県の両県が2023年2月にヒアリングの場を設け、意見交換を続けている。そしてJR西日本も、先ずは活性化しやすい広島~備後庄原間に臨時快速を運転している。

(つづく)

(中)

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