鉄道事業再構築協議会と芸備線の備後庄原~備後神代間の活性化(後)
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運輸評論家 堀内 重人
芸備線は広島~備後神代間を走行する路線であり、広島県と岡山県に跨っている。そのなかでも、備後庄原から備後神代間は、1日当たりの輸送密度が48名と極端に低いことから、日本で最初に「鉄道事業再構築協議会」が設置された。広島県と岡山県、庄原市と新見市だけでなく、国やJR西日本が加わって、芸備線の活性化を目指すか、バスへの転換を目指すかを、原則として3年以内に結論を出すことが求められている。芸備線は、長大なローカル線でもあることから、バス化してしまうと沿線地域に与える影響が大きい。鉄道として活性化させる方法を模索する。
備後落合で接続する木次線には、三段スイッチバックだけでなく松本清張の「砂の器」の舞台となった亀崇などもあるため、芸備線よりも観光資源には恵まれている。そのような理由から、「奥出雲おろち号」(写真5)という観光列車(トロッコ列車)も木次(出雲市)~備後落合間で運転されていたが、車両の老朽化にともない2023年11月で廃止された。
木次線の観光列車に関しては「あめつち」が運転されることになっているが、出雲坂根~三井野原間にある三段スイッチバックがこの車両では運転が困難なこともあり、米子~出雲横田までの運転となる。
今後は、木次線で使用される気動車を改造して、トロッコ列車を米子~東城間で運行するようにすれば、広島方面に住む人も高速バスで東城まで来れば乗車が可能となるだけでなく、芸備線の備後落合~東城間の利用者が増え輸送密度が向上し、この区間の収支率も大幅に向上する。
それ以外に木次線の三井野原にはスキー場があり、昔はスキー列車が運転されていた。現在は、スキー人口が減少しているが、三井野原駅の駅近くにスキー場などがあることから、冬場に乗車券・座席指定券にリフト券をセットした、企画乗車券で乗車が可能なスキー列車の運行が考えられる。この列車を設定することで、芸備線の備後庄原~備後落合間の活性化につながる。
総括
芸備線の備後落合~東城間の輸送密度が1日当たり11人、100円の収入を得るのに要する経費を表す営業係数が「25,000円以上」という数字ばかりが先行している。これだけを聞いた人が、「芸備線の備後落合~東城間は鉄道としての役割を終え廃止するしかない」という、誤解を与えてしまうことを筆者は恐れている。
「営業係数」は、どこでその経費を落とすかで数字は大きく変わる。芸備線の備後落合~東城間で使用する車両や乗務員は木次線でも使用され、芸備線の備後落合~三次間だけでなく備後落合~新見間でも使用される。
そうなると、JR西日本が芸備線の備後落合~東城間を廃止したいため、意図的に数字を悪くすることも可能である。木次線などで使用する車両や乗務員の経費だけでなく、備後落合駅の維持費や光熱費などを芸備線の備後落合~東城間の経費として落とせば、「営業係数25,000円以上」という非常に悪い数字になってしまう。
輸送密度に関しては、何も経営努力をしなければ沿線人口の過疎化で悪くなるだけである。東城に、駅近くに大きな病院があるだけでなく、駅前には広島を結ぶ高速バスが発着しており、木次線からの列車を東城まで乗り入れさせることで、通院に対する需要だけでなく、東城で高速バスに乗り換えることで、広島へ向かう需要も開拓できる。また木次線は観光資源も豊富であり、かつては「奥出雲おろち号」が運行されていたが、このような列車は、東城~米子や出雲市間で運行することで備後落合~東城間の利用者も増えて、収支率も大きく改善する。
芸備線の備後落合~東城間を黒字にすることは無理であるが、利用者を増やして、収支率を改善することは可能であり、それをすることで地域に対する便益が向上するだけでなく、備後落合~東城間を廃止すればネットワークが崩壊してしまう。
芸備線の備後庄原~備後神代間が協議会設置の第一号になったが、九州地区でも指宿枕崎線の山川~枕崎間や、日南線の串間~志布志間も協議会が設けられる可能性が大きいと考えられる。
これらの区間に協議会が設けられた際も、鹿児島県や沿線自治体だけでなく、地域のNPOなどとも協力して鉄道の存続・活性化を模索する必要がある。バス化する際も、国から費用が出るとはいえバス化されると地域がさらに衰退するため、拙速なバス化は慎まなければならない。
(了)
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