2024年11月05日( 火 )

【昨今MBO事情(3)】CCC、「体験」を軸にするSHIBUYA TSUTAYA─常識破りの「企画屋」の現在地(前)

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 MBO事情の第3弾。MBO(経営陣が参加する買収)で上場を廃止するオーナー企業は後を絶たない。上場維持のメリットとコストを天秤にかけ、コストが上回ったから株式市場から退出したオーナー企業のその後をレポートする。DVDレンタルビデオショップ「TSUTAYA(ツタヤ)」や共通ポイント「Tポイント」で一時代を画したカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)(株)(東京都渋谷区南平台町)だ。

非上場化で事業の再構築を図る

ツタヤ イメージ    創業者の増田宗昭氏は1951年1月大阪府枚方市生まれの73歳。73年同志社大学卒業後、ファッション専門店の鈴屋に入社。83年、32歳のとき、出身地の枚方市にツタヤの前身となる「蔦屋書店」を創業。85年に企画会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下・CCCと略)を設立して社長に就任。映像、音楽のレンタルサービス「TSUTAYA(ツタヤ)」のフランチャイズ展開を進めてきた。

 96年、CSデジタル放送のディレク・ティービーの社長業務に専念するため、いったん代表権ある会長に退いたが、99年4月に社長に復帰した。

 2000年4月東証マザーズに上場(03年3月東証一部に昇格)。03年に始めた「Tポイント」は、さまざまな店でポイントをためて使える共通ポイントの先駆けとなった。

 11年にMBO(経営陣が参加する企業買収)を実施、CCCの上場廃止に踏み切った。増田社長個人が全額出資して設立したMMホールディングスを通じて、増田社長が保有する41%分を除いて全株式を買い付けた。総額は約700億円。銀行からの借り入れで賄った。

 DVD・CDソフトを貸し出すTSUTAYA事業は成長の限界を迎えていた。DVDレンタルの値下げ競争もあり、TSUTAYAの既存店売上高は13カ月連続の前年割れだった。

 MBOで上場廃止した理由について、中高年層を意識した次世代店舗の開発や中国進出、新規事業への積極投資が必要と判断。非上場化で経営の自由度を高め、事業の再構築を図ると増田社長は記者会見で説明した。

東京・代官山の次世代店舗が
「ツタヤ図書館」をもたらした

 11年12月、東京・代官山に「代官山蔦屋書店」および隣接する専門店群「代官山T-SITE・GARDEN」をオープンした。「プレミアムエイジ」と呼ばれる50代以上の大人世代に向けた所も生活提案の場として提供した。

 TSUTAYA以上に存在感を示しているのが「蔦屋書店」だ。TSUTAYAが販売やレンタルで取り扱ってきた書籍やDVD、CDなどに加えて、深夜まで営業しているラウンジやカフェチェーンの「スターバックス」、旅行代理店のカウンターなどを兼ね備えた複合施設だ。

 この東京・代官山の次世代店舗が「ツタヤ図書館」をもたらした。CCCが運営する「ツタヤ図書館」の第1号は13年4月に開館した佐賀県武雄市図書館である。東京・代官山の蔦屋書店を見た樋渡啓祐・武雄市長(当時)が「代官山蔦屋書店を図書館のかたちでもってきてほしい」と増田宗昭社長に要請したのが始まり。CCCが3億円、武雄市が4億5,000万円の計7億5,000万円かけて、武雄市図書館を改装。運営はCCCに委託された。

 蔵書数20万冊。年中無休で午前9時から午後9時まで。蔦屋書店とスターバックスコーヒーが併設されており、コーヒーを飲みながら雑誌を読むことができる。テレビが大きく取り上げたことで、人口が5万人の図書館の来館者は改装前の3倍、2年半で200万人を超えた。武雄図書館は、地方創生の画期的な手法と称賛された。

ブーイングに一転した武雄市図書館

 リニューアルオープンから2年経って、ツタヤ流に疑問の声が挙がってきた。従来の図書館が採用する日本十進分類法ではなく、書店のように料理、旅行、趣味などを重視するライフスタイル分類を導入。この分類では、いつも図書館を利用している人は本を探せない。しかも古い本ばかりで、新しい本がまったく入ってこない。

 住民の情報開示請求で、10年以上前の資格対策本や埼玉県のラーメン店ガイドなどを開館時に購入していたことが判明。それらの本をCCCが出資する古書店から買ったことから「ツタヤの在庫処分だ」と批判された。

 さらに、図書館改革を積極的に進めた前武雄市長・樋渡氏が、CCCの子会社である「ふるさとスマホ(株)」の代表取締役に就任していて、天下りではないかと週刊誌で報道されたことで、ツタヤ図書館への批判が一気に炎上した。

 その最中の15年10月1日、CCCが指定管理者となって運営する2館目の公共図書館、神奈川県海老名市中央図書館がリニューアルオープンした。海老名市でも、タイの風俗店を紹介するガイド本などの選書が問題になった。

 ツタヤ流のあまりの悪評に、愛知県小牧市では10月4日、新図書館建設計画が住民投票で否決され、CCCとのアドバイザリー契約が解消された。「ツタヤ図書館」は潰えた。宮城県多賀城市、岡山県高梁市、山口県周南市でツタヤ図書館の計画が進んだが、ツタヤ図書館反対の住民投票の動きで盛り上がった。

 各地でツタヤ図書館建設の反対運動が起きた。だが増田氏は痛痒を感じないだろう。常識を破壊することが、彼の真骨頂であるからだ。

(つづく)

【森村 和男】

昨今MBO事情(2)
(中)

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