2024年12月21日( 土 )

自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(3)

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鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村 朗

 昨年から世間の注目を集めている自民党の「裏金」問題では、今年1月末に特捜部の追及がなぜかひと段落したように思われた後に、「派閥」解消や政治倫理審査会開催の問題に論議が絞られてきているようだ。しかし、この裏金問題はこれまで長年、自民党政権下で問題視されてきた「政治とカネ」の問題がまたしても浮上したものであり、かなり根深い問題であると言わざるを得ない。

3.なぜ政治倫理委員会なのか

国会 イメージ    そもそも、なぜ政治倫理委員会(以下、政倫審)なのかについても述べておきたい。前述したように、今回の自民党の裏金問題は汚職・脱税につながる犯罪行為を行ったのではないかという、重大な疑惑が浮上しているのである。

 まさに「自民党全体が組織ぐるみでシステマチックに裏金づくりをしていたというものだ。極めて重大であり、戦後最悪の金権、腐敗事件だ」(日本共産党の小池幹事長)というものである。こうした政治家の重大疑惑の真相解明と責任追及の場として政倫審はふさわしくない。このような重大な疑惑をもたれた政治家の場合、いま最も適切なのは衆議院予算委員会の場での喚問であり、最低でも参考人招致が必要である。この点を前提として押さえたうえで、次に政倫審の問題を述べていきたい。

 政倫審は、田中角栄元首相がロッキード事件で1審有罪判決を受けたのを機に、1985年に衆参両院に設置された機関であり、衆院では25人、参院では15人の委員が与野党国会議員から選出される。これまで衆院では過去に9回開催され、8人の議員が審査を受けた。参院では2月27日に初めて開催された。

 この政倫審は疑惑をもたれた政治家に弁明の機会を与える場であり、徹底した真相解明と責任追及を行う場でも、再発防止を論じる機関でもない。なぜなら政倫審への参加は本人からの申し出・同意を前提しており、そこでの審議は原則として非公開で、かつ議事録は非開示、また偽証が明らかになった場合も除名・辞職などの拘束力・強制力のある処分・罰則がないというルールとなっているからである。

 その政倫審誕生の経緯を熟知している平野貞夫元参議院議員はテレビ放送のなかで次のように語っている(以下は、BS-TBS『報道1930』2月26日放送での平野氏の発言の要約)。

 「政倫審の立法過程で厳しい罰則を設けようとする動きがあったという。たとえば自民党内の懲罰では一番重いのは除名だが、国会でも著しく倫理に反した議員は懲罰対象にしようという意見も出たという。そこで、当時衆議院運営委員長だった小沢一郎氏が、立ち上げの座長としてロッキード事件で起訴されたとはいえ、まだ大きな権力をもっていた田中元総理の元案をもって行ったら凄く怒られて帰ってきたという。結局“厳しい案”は持ち帰られたが、このときの野党の錦の御旗は“田中元総理のような金権政治は許さない”、“田中元総理の政治的影響力を下げる”というもので、断固厳しい規則を求める姿勢をくずさなかったという。

 自民党が予算審議と引き換えに野党案を飲んだ結果、強い権限をもった政倫審が誕生する方向で話が決まったはずだった。ところが、1985年2月27日の午後に田中元総理が脳梗塞で倒れた。すると野党の方から、『逆にいつ我が身になるか…』ということで素案が骨抜きになったという。

 結局、『除名勧告』など厳しい規則は設けられず、『行動規範の順守の勧告』など甘い罰則権限しか持たない機関として今日に至っている」

 ここから、本題である今回行われた政倫審の話に移る。当初2月28日開催予定の衆議院政倫審に参加することになっていたのは、安倍派4名(安倍派の事務総長を務めた西村・前経済産業大臣、松野・前官房長官、塩谷・元文部科学大臣、高木・前国会対策委員長)と二階派1名(武田元総務大臣)の計5名であった。それが審議の完全(全面)公開を求める野党とそれを制限しようとする自民党との折り合いがつかず延期された。

 予算の年度内成立を危ぶんだ岸田首相が自ら政倫審に参加するという奇手を新たに出すことによってようやく翌29日に岸田首相と武田元総務大臣の2名、3月1日に残りの4名が議員の出席とメディア(NHK)報道を認めるかたちで実施されることになった。

 この2日間わたる政倫審でも与野党間でひと悶着があり、国会が空転したしたことも極めて異常であった。ここで政倫審での審議内容・やり取りを詳述することは省くが、この政倫審はもはや国会がまともに機能していない、まさに議会制民主主義の危機であることが間違いないことを明らかにした。また政倫審へ出席した疑惑をもたれた政治家6名は予想されたように、基本的にこれまでも述べていた内容を繰り返すのみであり、今回の政倫審をもって国民への説明責任をはたしたことにはならないのはいうまでもないであろう。

 ここで結論として改めていえることは、この節で最初に触れたように、重大な疑惑をもたれた政治家の場合、最も適切な対応は衆議院予算委員会の場での喚問であり、最低でも参考人招致が必要であったことだ。また、今後は、今回自ら名乗り出て参加することをしなかった多くの議員にも喚問や参考人招致を求めていくことも必要であろう。とくに二階俊博元幹事長や萩生田光一前政調会長、森喜朗元首相の証人喚問・参考人招致は必須であろう。

 そして、予算案、とりわけ能登半島地震の被災者への対策費(本来ならばもっと早い時期に予備費対応できたもの)の年度内成立を人質に取って、野党との十分な合意を得ないまま物事を拙速に進めようとする自民党の対応は批判されてしかるべきである。

(つづく)


<プロフィール>
木村 朗
(きむら・あきら)
1954年生まれ。北九州市出身。北九州工業高等専門学校を中退後、福岡県立小倉高校を卒業。九州大学法学部、同大学院法学研究科(博士課程在籍中に交換留学生としてベオグラード大学政治学部留学)、同法学部助手を経て、88年に鹿児島大学法文学部助教授、97年から同学部教授(20年まで)。専門は平和学、国際関係論。鹿児島大学名誉教授。日本平和学会理事、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表、国際アジア共同体学会理事長、元九州平和教育研究協議会会長などを歴任。

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