2024年11月30日( 土 )

「課題先進国ニホン」が今考える2030年のビジネス(後)

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技術経営コンサルタント
亀井 淳史 氏

 日本のデジタル赤字が拡大しているが、これは海外のITベンダーへの依存度が高いためであり、これからさらに増大していく。今後一層拡大するデジタル市場で日本はどう活路を見出すのか。一方、地方バス事業など公益事業のほとんどは人口減少化で採算が取れず存続すら危ぶまれ、「課題先進国ニホン」はいよいよ現実化してきた。だが、ここにきて公益事業など社会システムをITでプラットフォーム化する動きも現れており、この動きは国内のみならず新興アジア圏でも大きなニーズを生むと見込まれる。日本発のプラットフォームビジネスの創出が期待される。

目指す市場はアジアだ

 実は日本のバス事業を誘致したいというアジアの国・地域は多い。しかし日本でも採算が危ぶまれるなかで現地バス事業への参入に二の足を踏む事業者がほとんどである。

 そこでバス事業のプラットフォームを提供し、アジア圏全体での利用拡大を目指すならば事業成立の可能性はある。バスの運行自体は現地の事業者が行えばいいからだ。バス事業のプラットフォーマーとは、バス運転手の育成や労務管理システムを標準化して、バス事業パッケージをサービスとして提供するものである。

 それだけではない。アジアではアジアハイウェーなど国境を越えた道路網の整備が進んでいる【図4】。ローカルバスから長距離バスまで国際的につながるバス事業のためのプラットフォームサービスはアジア圏の経済発展にも不可欠なデジタルインフラになる。日本の企業がその役割をはたすことができれば、日本の意義は大きい。しかも市場は急成長する。

出所:ESCAP facebook
出所:ESCAP facebook

 日本が今やるべきことは、道路交通事業者を対象にしたプラットフォームサービスを産業化し、それを国内だけではなく高度なIT化がリープフロッグ(既存の社会インフラが整備されていない新興国で新しいサービスなどが一気に普及すること)で急進するアジア圏においても展開し、グローバル企業化することだ。

 さらに追い風もある。プラットフォームを社会システムとして機能させるためには「必要な要素技術を集約するすり合わせ」も不可欠だ。

 バス事業でいえば、今後バスのEV化が進めば車両の保守点検・整備作業は大きく減らせるだろう。そもそも部品点数が少ないために故障率の低減が見込まれるだけでなく、すべての運行状況や車両部品のセンシングにより故障診断や予防保全などもリモートで行えるようになる。

 プラットフォームサービスに最適なハードウェアとしての量産バスも大きな商材となる。バスメーカーへの期待も大きい。

社会システムを産業化しよう

 すでにお気付きのように、我々が今やるべきことは地方バス事業を再生するだけではない。ITで新たな社会システムを産業化することであり、言い方を変えれば公益事業の産業化ということになる。

 【図5】は日米の産業別収益ウェイト比較である。日本は一般消費財等の製造やサービスが得意だが、情報技術では米国に大きく差を付けられている。だが注目すべきは公益事業である。日本ではその事業収益はマイナスであるが、米国はエネルギーと同規模の収益を上げている。

出所:みずほインサイト2017年10月2日発行「日本企業の稼ぐ力は高まったか」 みずほ総合研究所(現・みずほリサーチ&テクノロジーズ)、一部著者加筆
出所:みずほインサイト2017年10月2日発行
「日本企業の稼ぐ力は高まったか」​​​
​みずほ総合研究所(現・みずほリサーチ&テクノロジーズ)
※一部著者加筆


 今後日本で公益事業がサービスを永続的に提供し続けるためには、適切な収益を上げ、そこからサービスの改善や向上を実現できる仕組みを構築する必要がある。日本ではその伸びしろが極めて大きいということだ。

 バス事業以外にも地域新電力やマイクログリッド事業も大きな可能性を秘めている。いずれも小規模の事業者では大きな収益を上げるのは困難であろう。だがアジア圏では市場が急拡大することが見込まれるため、いずれもハードウェアを含めプラットフォーム化できるビジネスだ。

 すでにマイクログリッド向けにプラットフォームサービスを提供する国内スタートアップも現れている。それでは、動き始めたこうしたビジネスをどのようにグローバル企業に仕立てていくのか。それを実現できるのは今の日本企業をおいてほかにはない。

 人工知能などのIT革命はさらに進むだろう。アジア・インド圏も急速に成長している。日本の産業構造の組み換えは確実に迫っている。日本企業が共同出資しグローバルに活躍するプラットフォーム企業を何社も輩出することは出資企業の生存戦略でもある。公益を生業とする日本発の新たな社会システム産業の創出が急務だ。

(つづく)


<プロフィール>
亀井 淳史
(かめい・あつし)
1955年生、愛知県出身。技術経営コンサルタント。80年千葉大学大学院工学研究科修了。アイシン精機(株)(現・(株)アイシン)にて先端技術企画に従事。(株)テクノバにて新エネルギー国家プロジェクトに参画((株)テクノバは78年設立のエネルギー・先端技術を専門とする技術系シンクタンク)。2011年より(株)テクノバ代表取締役社長。20年より技術経営コンサルタント、名古屋市交通問題調査会委員などを務める。

(前)

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