2024年12月22日( 日 )

林産業活性化に向けたサプライチェーン構築が次の段階へ(前)

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(一社)九州経済連合会「モクビル研究会」
秋山 篤史 氏/西山 宏人 氏/倉掛 健寛 氏

左から秋山氏、西山氏、倉掛氏
左から秋山氏、西山氏、倉掛氏

 SDGsやカーボンニュートラル社会の実現に向け、木材活用の拡大による林産業の活性化への機運が高まっている。九州は森林資源に恵まれており、活性化による成果は非常に大きいからだ。ただ、サプライチェーンの各段階にそれぞれ課題があることから、その動きは手探りなものにとどまってきた。さらなる活性化に向けてどうすべきなのか──。九州において主導的な役割を担っている(一社)九州経済連合会(以下、九経連)の「モクビル研究会」の関係者に話を聞いた。

地域共創へ向け新組織

 九経連では2023年4月に従来の4委員会(観光、農林水産、行財政、ダイバーシティ「幸せコミュニティ」推進)を統合し、それぞれの所管テーマに対し一体的に取り組む組織「地域共創委員会」(委員長:池内比呂子・(株)テノ.ホールディングス代表)を創設。取り組みの1つに「魅力ある九州の『農林水産活性化共創モデル』づくりへのチャレンジ」を掲げ、委員会内の部会内に農林水産それぞれの専門部会がある。モクビル研究会はその林業専門部会内に位置づけられている。同研究会は、林産業の好循環化や、CO2貯蔵につながる建築物、および非住宅・中大規模建築物への木材活用の拡大をはたすため、「技術力の向上」と「サプライチェーンマネジメント全体の最適化」などの諸課題を洗い出し、知見を集めることを目的として、21年度に発足したものである。「全国の経済団体で林業専門部会があるのは九州だけ。なかでもモクビル研究会は活発に活動しているワーキンググループ」(西山宏人地域共創部担当部長)という。

 研究会は九州各県の自治体はもちろん、福岡県木材利用促進協議会(会長:平川辰男・福岡県木材組合連合会会長・(株)平川木材工業会長、県木促協)、FTBL(Fukuoka Timber Building Lab)など福岡県の関連団体、九州各地の「川上」(山林経営者や森林組合などの林産事業者)、「川中」(木材の生産・加工・流通などに関わる事業者)、「川下」(設計士や木造住宅などの施工業者、消費者)にわたるサプライチェーン関係者と議論を重ねてきた。

 そのなかで、各地域材を活用した木造3階建オフィスビルのモデル「モク三(サン)ビル」を19年7月に発表。21年には福岡県木材組合連合会が推し進める地域木材活用促進リーフレットに同モデルが採用されるなど、それをベースとした各地域産材の活用促進、木造建築物の普及拡大に向け動いてきた。

住宅に特化した戦後木造の枠組み

 モク三ビルは大きく、(1)木造(在来)軸組住宅用に流通している製材(スギ・ヒノキ材)を利用、(2)地域の製材所で木材を加工し、金物なども使用する、(3)部材のユニット化、により施工性の向上、施工コストの低減を打ち出したという特徴がある。ただ、残念ながら現状では、具体的な成果はまだ少ない状況である。その事情について、県木促協事務局長の秋山篤史(株)アキヤマインダストリー代表は次のように指摘する。

 「日本の住宅関連産業では戦後、とくに2000年代に増加した低コスト住宅の台頭によって、木材の活用はこれまでほぼ住宅に特化されてきた。川上から川中、川下は今もその枠組みの延長線上で動いていることから、関連事業者は木造住宅と、ビルや商業施設など非住宅建築物の木造化は別のものと捉えており、自分たちとの関連性を見出しづらかった」という。では、それは具体的にはどのようなことを指すのだろうか。

 木材活用拡大の矛先となる非住宅・中大規模建築物はこれまで、鉄骨造やRC(鉄筋コンクリート)造に特化されてきたことから、木造住宅との間には施工システムに大きな違いがある。このため、仮に設計士が木造による中層ビルの設計を行い、事業の収支計画を示したうえで事業主のゴーサインを得られたとしても、住宅を供給する事業者が施工する場合はこれまでのシステムとの違いが大きく、時に混乱に陥ることにもなる。

 たとえば、建築部材の品質証明。ビル建築においてそれは普通に行われていることであるが、住宅建築にはそこまで厳密なルールがない。こうした事情があり、住宅会社などは中層・大規模木造建築物、木造非住宅への進出について様子見をしているのだ。

 このほか「そもそも、設計士自身が大学などの教育機関でほとんど木造建築を学んでこなかったことから、慣れ親しみが薄い。それも中層・大規模木造建築物の普及がなかなか進まないことの要因になっている」と、FTBL代表でモクビル研究会のリーダーも務める倉掛健寛(株)倉掛設計事務所代表は話す。川下である住宅建築を行う工務店や住宅メーカー、建築設計事務所などが様子見をする影響は、彼らに木材を供給する川中の木材問屋などの流通分野、製材会社など木材加工の分野にもおよんでいる。

(つづく)

【田中 直輝】

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