パソナの錬金術~社内ベンチャーを売却、1,200億円稼ぐ(後)
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株式市場は、一攫千金を狙う錬金術師の世界と言っても良い。社内ベンチャーを上場させて売却し、大金を手にする。“濡れ手で粟”の錬金術の醍醐味だ。人材サービス大手、パソナグループ(G)は子会社で福利厚生代行大手のベネフィット・ワンを第一生命ホールディングスに売却。パソナGは売却で1,200億円を得る。だが、喜々として錬金術に走ったわけではなさそうだ。
「政商」は規制緩和の分野に進出する
規制緩和を提言し、その分野にオリックスが進出したことから、宮内義彦氏は「政商」と呼ばれた。パソナの南部氏も小泉改革で頭角を現わした「政商」であった。
パソナは小泉純一郎=竹中平蔵(元経済財政担当相、元金融担当相)コンビが推し進めた労働者派遣法の規制緩和の恩恵を受けた会社だった。
2007年1月、竹中平蔵氏はパソナに天下り。09年8月にパソナ会長に就いた。15年9月、改正労働者派遣法が成立した。これにより派遣労働者が急増し、派遣の固定化が進むと危惧されている。
パソナは雇用の規制緩和や公共サービスの民間受注の流れを受け、事業を拡大してきた。竹中氏は政府の国家戦略特区諮問会議や産業競争会議、未来投資会議などのメンバーとして規制の見直しを求めてきた。
雇用に関する制度は、竹中氏が政府の会議に入った1990年代以降、大きな変更がいくつもあった。竹中氏が「学者政商」と呼ばれるゆえんだ。
南部氏は「政商」の常として政界工作に怠りない。パソナと政治家の蜜月を端的に表しているのが、迎賓館「任風林(にんぷうりん)」で毎週のように政治家、有名人を招いて開かれる酒池肉林のパーティーを開いたことで、これが週刊誌に叩かれた。
自治体からの間接業務の請負がドル箱に
竹中氏は22年8月、10年務めてきたパソナ会長を退いた。「学者政商」竹中平蔵氏がパソナにもたらした最大の功績は、企業や自治体の間接業務を請け負うBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業だ。BPO事業はパソナのドル箱となった。
小泉・竹中構造改革で進めた「三位一体」の改革で、地方自治体に対する地方交付税交付金や国庫補助金をカットし、財政危機に瀕した自治体が人件費削減に踏み込まざるを得ない状況に仕向け、職員の非正規化や公共部門の民営化を推進させるなかで、パソナはみずからが、その受け皿になった。
パソナのBPO(委託・請負)事業の売上高は、22年5月期1,393億円、23年同期1,419億円と右肩上がりの成長で、24年同期は1,500億円を見込んでいる。創業事業であるエキスパート(人材派遣)事業はほぼ横ばいで、24年同期の売上は1,485億円の見通し。BPOが人材派遣を抜くことになる。
南部氏は新たな利権を求めて地方創生事業に軸足を移す。
パソナが淡路島に本社機能を移した理由
パソナは20年9月、東京都心部の大手町から兵庫県淡路島への本社機能を移転するとして世間を驚かせた。24年5月までに本社勤務社員の約1,200人が淡路島で勤務するようになる。南部代表は「テレワークが普及し地方でも仕事ができる」と、脱東京一極集中と地方創生事業での雇用創出を目指す考えを示した。南部氏は主に淡路島で執務している。「パソナ島」と呼ばれる淡路島には兵庫9区を地盤とする「安倍派5人衆」の1人、西村康稔・元経済産業相が、安倍首相(当時)の昭恵夫人をともなって南部代表の激励に訪れたことがある。
淡路島への本社機能移転の狙いは何か。「地方創生」を額面通り受け取る向きは皆無だろう。「政商」の南部氏のことだ。利権漁りと見られても無理はない。
経営コンサルタントの大前研一氏は情報サイト「大前研一のニュース時評」(20年9月12日付)で、補助金が目当てだと言及している。淡路島は地域活性化総合特区指定を受け、「あわじ環境未来島特区」になって、さまざまな補助金や税制優遇措置が受けられる。
〈パソナという会社の周辺には、どうも補助金や給付金のニオイが漂っている。人員削減をする企業の依頼で行うアウトプレースメント(再就職ビジネス)でも、次の仕事を紹介すると、補助金が出ることになっている。持続化給付金の委託事業などで政府が丸投げしたものを請け負う時に電通とともに常に名前が出ていた。取締役会長に政府の委員会などを歴任している竹中平蔵氏を配するなど「補助金を追いかけるのは、日本一」とも言われている〉
パソナの23年5月期の連結決算によると補助金収入は9億6,800万円と巨額にのぼる。
カジノ利権が目当て
淡路島の対岸、大阪の人工島・夢洲では25年に大阪・関西万博が開催される。会場跡地の開発については、大阪市はIR(カジノを含む統合型リゾート)を事業予定地と位置付けている。大阪府、大阪市などでつくる協議会は、夢洲を起点とした水上交通の活用方針を決めた。神戸港や淡路島、関西国際空港などから夢洲に至る海上航路など12航路だ。関西万博の跡は、カジノになる。カジノ客を淡路島に宿泊させ、海上航路で夢洲に送り込むができる。
カジノは利権の宝庫だ。カジノ運営会社は、竹中平蔵氏が社外取締役を務めていたオリックスの合弁会社。カジノのためのインフラは、万博インフラとして公費で整備される。
パソナは万博に積極参加。パビリオンを出展する。万博会場とパソナの本社がある淡路島を直通航路で結びにカジノの供給拠点とするなど抜かりはない。国家プロジェクトは、「政商」の南部氏にとって、おいしい利権なのである。
(了)
【森村 和男】
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