2024年11月25日( 月 )

優柔不断な岸田首相、今こそ衆議院解散を行い国民の信を問え

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 岸田文雄首相(自民党総裁)は24日の参議院予算委員会で、28日投開票の3つの補欠選挙について、「私への判断も含まれる」と自身の進退に影響をおよぼすとの認識を示した。昨年来、解散の可能性を示唆しつつ、のらりくらりと決断を先送りし続けたつけが、ここにきて岸田首相に迫ってきている。

微増した内閣支持率

 9月の自民党総裁選で岸田首相は、再選を目指しているといわれる。そのためには、総裁選に先立つ今国会会期末の6月に衆議院解散・総選挙に打って出て、選挙による国民の信任を得ることが大義名分として求められている。

 直近の4月20日、21日に朝日新聞が行った電話による世論調査によると内閣支持率は、26%と前回よりもやや増加した(前回3月の調査は、22%)。一方の不支持は、62%(前回は、67%)にのぼる。

 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が同日程で実施した合同世論調査では、26.9%と、前回調査(3月調査、23.2%)より3.7ポイント増えたが、こちらも依然として危険水域といわれる20%台にとどまっている。

 自民党派閥の裏金問題が追及され始めた昨年11月以降、内閣支持率は20%台の低水準で推移しており、本来なら、自民党内で岸田おろしが起きてもおかしくない状況にある。しかし、当の派閥の政治資金問題を口実に、自身が会長を務めた宏池会(岸田派)の解散を宣言するという奇策を用いて、麻生太郎氏らの動きを牽制し、岸田おろしの動きを封じ込めた形だ。

派閥解散の副作用への懸念

 宏池会の解散に続いて、清和政策研究会(安倍派)、志師会(二階派)などが派閥解散を決め、17日の会合で平成研究会(茂木派)も政治団体の解散を決定した。残る派閥は、麻生氏率いる志公会(麻生派)のみとなった。

 これまで内閣人事や党役員人事については、派閥からの推挙を踏まえて、党総裁や幹事長らがバランスを考慮して人選してきた経緯がある。二階派の解散に賛成した武田良太元総務大臣(二階派事務総長)も「派閥の教育的役割は大きい」と公言しており、派閥が果たしてきた役割は大きい。

 派閥の力が急速に弱くなった現状に対して自民党内では「今後、総裁や幹事長などに権限が集中し、恣意的な人事が横行しかねない」と、派閥解散の副作用を懸念する声も少なくない。ある自民党関係者は「岸田さんは、人事が好き。2019年の総裁選の際、あるテレビ番組で、首相になったら何をやりたいか聞かれて『人事』と答えたからね」と語る。

 他方、岸田首相は、派閥解散に抵抗した麻生・茂木両氏に守旧派のレッテルを貼ることによって、当面の倒閣運動を阻止する狙いが成功したと言える。岸田首相が、訪米前に政治資金問題で処分を断行したのも、自分の留守の間に反対ののろしがあがらぬよう手を打ったものと見られる。

アメリカの「ポチ」なのか

 岸田首相は、4月8日~14日の訪米において、国賓待遇を受けた。このことによって岸田首相自身が、「宗主国アメリカの承認を受けたと考えている」と指摘する声は多い。

 10日に行われた日米首脳会談後、岸田首相とバイデン大統領は、中国への対抗を念頭に、安全保障、経済、先端技術など幅広い分野での協力を盛り込んだ共同声明を発表した。

 中国の覇権主義的な動きは、警戒すべきだが、米軍と自衛隊の部隊運用にかかわる「指揮統制」の連携強化を行うことで、自衛隊が米軍の指揮下に置かれかねない。日米の連携強化とは、当然、それにともなう経済的要求をのまされたと考えるのが自然だ。安倍晋三元首相も、対米追従との批判を受けたが、米側に釘をさす姿勢をもっていた。しかし、岸田首相からは、そうした矜持が感じられない。

 昨年の広島サミットについても同様で、岸田首相は広島出身であり、被爆国の議長としてアメリカをはじめとする核保有国にモノをいう絶好の機会だったが、核軍縮に関する共同文書「広島ビジョン」では、核抑止力を肯定し、被爆者から失望の声が挙がった。

 どの政治家も政権の座についたら、その維持を考えるのは当然だが、岸田首相から思想なり、理念に基づいた政策や政治的メッセージが感じられない。

 岸田家の墓地は、広島市の隣、東広島市の農村地域にある。元衆議院議員の父、文武氏につながる親族も広島で被爆し、亡くなっている。

 カナダ在住で核廃絶を訴えるサーロー節子さんは、広島出身の被爆者である。サーローさんの姉と子も被爆し、岸田家の墓所に埋葬されている。サーローさんの姉の夫のいとこが、岸田首相の祖父・正記氏である。

リーダーとしての決断が問われる

 世襲政治家にありがちな典型的な東京育ちであるからか、岸田首相からは広島の地の人間の雰囲気をあまり感じないのは、筆者だけだろうか。宏池会の前会長・古賀誠氏は「宏池会の理念は、軽武装で経済重視」であることを繰り返し述べてきた。古賀氏の父親は、フィリピン・レイテ島で戦死、母に育てられたという生い立ちをもつ。

 古賀氏は、福岡県南部の旧瀬高町(現・みやま市)の出身。政治家を引退した今も東京に拠点を置き、地元と行き来をしているが、福岡筑後の地の人間の風格を帯びている。岸田首相とは対照的である。

 今年1月、古賀氏は、自民党広島県連所属の地方議員の会合で講演したが、参加者によると、岸田政権の動きを懸念する発言があったという。岸田首相は、総裁選で安倍元首相や麻生氏の力を借りたため、その意向に配慮してきたのだろうが、一昨年7月に安倍元首相が亡くなった後も、「本来の宏池会の政策」(古賀氏)の道筋は見えてこない。

 いずれにしても、28日、東京15区など3つの補欠選挙の結果が明らかとなる。もう、のらりくらりした引き延ばし戦術は通らない。

 一国のリーダーである岸田首相は、長く政権の座にいることや、人事権を行使することに力を注ぐのではなく、自身のビジョンを示し、国難に立ち向かうべきである。首相の専権事項である解散権の行使にも躊躇するようでは、国民の信は得られない。

【近藤 将勝】

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