株主総会風雲録（3）ダイドーリミテッドの乱　総会直前に影武者へトップ交代（後）

ダイドーの起死回生の巻き返し策

    圧倒的な株式を手にしたSCはダイドーに株主提案を突き付けた。SCの株主提案に驚愕したのが、ダイドーの経営陣だ。すでに株式の3分の1を握っているSCが、生え抜きの鍋割社長の退陣を求め、取締役候補にダイドーと関係が深いブルックスブラザーズとオンワード樫山の出身者を擁立する。2人ともダイドーの取締役候補になっても不思議ではない人物たちだ。

　これで勝負があったと考えたのだろうか。どうやって巻き返すか。起死回生策を打ち出す。

　ダイドーは当初、鍋割氏の社長続投と株主総会への取締役再任議案の提出を決めていたが、SCの株主提案を受け、この人事を撤回。コンサル会社の山田政弘氏を会長、成瀬功一郎氏を社長に起用することに切り替えた。「影武者」を立て、SCの経営陣総退陣に先手を打ち、その意図を封じ込める狙いだ。SCはその人事案に猛反発した。

会社側は5人、旧村上ファンド側は3人の取締役を得る

　6月27日、ダイドーリミテッドの株主総会が都内で開かれた。7月1日、ダイドーは関東財務局に臨時報告書を提出し、株主総会での取締役選任の賛否の結果を開示した。

■ダイドーリミテッドの議決権行使結果
候補者氏名・・・・・賛成率・・・賛否
〈会社提案〉
・山田政弘・・・・・51.25％・・・可決
・成瀬功一郎・・・・51.34％・・・可決
・白子田圭一・・・・51.73％・・・可決
・今井和俊・・・・・51.66％・・・可決
・久保木大世・・・・50.68％・・・可決
・藤原英理・・・・・50.59％・・・否決
〈株主提案〉
・中山俊彦・・・・・50.70％・・・可決
・大澤道雄・・・・・51.15％・・・可決
・村田正樹・・・・・51.73％・・・可決
・篠崎真吾・・・・・49.96％・・・否決
・島村隆志・・・・・48.96％・・・否決
・池照佳代・・・・・49.90％・・・否決

　議決権の賛否は、両陣営の凄まじい鍔迫り合いを見せつけた。

　会社側が提案した6人の取締役の賛成比率は50.59％～51.73％。会長兼最高経営責任者（CEO）に就いたコンサルタントの山田政弘氏は51.25％。しかし、社外取締役候補の社会福祉労務士の藤原英理氏は50.59％の賛成はあったものの、否決された。取締役の定員が8人のため、SC側の3人の賛成率を下回った。

　SC側の候補6人の賛成比率は48.96％～51.73％。元ブルックブラザーズCFOの中山俊彦氏は50.70％、元オンワード樫山社長・大澤道雄氏は51.15％。あと1人は野村證券出身で、森トラストグループの不動産投資会社の社長を務める村田正樹氏が51.73％。残り3人は賛成率が50％未満で否決された。

　会社側とSC側の取締役候補者の賛成率はほぼ同一ながら、会社側が若干上回ったのは、議決権助言行使会社ISSが会社提案への賛成を推奨したことが大きい。

　ダイドーが「影武者」を立てた成果だ。決まり手は、相撲でいう「肩透かし」。相手が押し返してくるところを、身をかわし、はたいて引き落とす技だ。

村上ファンドの総帥が「待った」と立ちふさがる

　会社側とSC側の膠着が続くなか、村上ファンドの総帥・村上世彰氏が前面に乗り出してきた。7月4日、関東財務局に提出した大量保有報告書によって、旧村上ファンド直系の南青山不動産と、村上氏の長女・野村絢氏と合わせて5.14％を保有する大株主として登場したことが明らかになった。村上氏の得意技は、経営トップとの直談判。ダイドーの新経営陣に求めたのは株主還元だ。

　ダイドーは7月4日、25年3月期の年間配当を、1株あたり100円に積み増すと発表した。従来予想より95円多い。それどころか27年3月期までの3年間は年100円の配当を基本とする。合わせて最大50億円程度の自己株式の取得を実施する。株式還元の大盤振る舞いだ。

　株主還元の原資はどうする。最大の焦点は、小田原市のショッピングセンター「ダイナシティ」の行方だ。村上ファンド側は3人の取締役を送り込み、橋頭保を築いている。ショッピングセンターを死守したい会社側と売却したい旧村上ファンド側の間で、虚々実々のせめぎ合いが繰り広げられることになる。

（了）

【森村和男】