2024年12月23日( 月 )

TPP大筋合意アトランタ現地報告(3)~山田正彦元農水相

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「日本の降伏文書」~日米並行協議の危険とISD条項

 ――TPPは21分野に及ぶ。米韓FTAで、韓国は、米多国籍企業の利益に反する政策がとれなくなった。同じことが起きますか。

山田 正彦 氏<

山田 正彦 氏

 山田 憲法があって、その下に条約があって、さらにその下に国内法、条例や政令がある。国内法は条約に縛られる。韓国もそうだ。だから、韓国は国内法を変えざるを得なかった。同じことが起きる。国内法よりTPPが優先され、日本の国のかたちが変わってしまう。米韓FTAでは、弁護士会の発表では180本、政府の発表で63本の国内法が変えられている。今では、それ以上増えている。韓国は、ISD条項で非常に困っている。投資家を保護するために、投資家がその国を訴えられる制度だ。その国の国内法に関係なく、自由な市場競争に反しており企業の利益が損なわれたかどうかだけ判断される。韓国の裁判官167人が、日本の最高裁にあたる大法院に司法主権がなくなると不服の申立をしているほどだ。

 ――国内法が変わるスピードは、今の国会議席数のままならば、一気に変わる?

 山田 今でも日米並行協議で、どんどん変えていっている。医療の分野では、申し出制で保険の適用がない診療が受けられる「患者申出療養」が導入された。保険適用のない自由診療ができる。混合診療の解禁で、国民皆保険の崩壊の第一歩だ。

 ――なるほど。TPPと日米並行協議が競いあって、国内法の改正がすでに進んでしまっている。

 山田 日米並行協議をやると言ったときに、私は「戦後のミズーリーでの降伏以来の日本の降伏だ」と書いた。だから、これからどんどん国内法が変えられていく。医療では政府は「国民皆保険を守る」と言っているが、とんでもない話で、国民皆保険については「留保した」と言っている。留保とはどういう意味か。例外なら例外というはずだ。米国も日本も最初から、今の医療保険制度を壊すとは言っていない。むしろ、日本の医療保険制度を利用して高い医薬品を売ろうとしている。

医薬品高騰、日本の医療が崩壊

 ――そうすると、どういう現象が起きますか。

 山田 高い医薬品を売るのは簡単だ、医薬品の単価を上げればいい。日本では、薬の価格は国が決めるが、米国は、医療は商品で、製薬会社が薬の価格に口を出し、薬の価格を決める。米国ではタミフル1本が7万円、原価は100円だ。民間保険会社に入らなければ、いい薬や、いい治療を受けられない。米国では、患者は盲腸の手術で350万円かかる。米国は、保険が適用されないので、民間保険会社が利益を上げている。日本でもアフラックが郵政を取り込んでしまったように、国民皆保険と言いながら、保険の適用されない自由診療の部分で、米国の民間保険会社に取り込まれ、米国の医療のようになる。一番影響を受けるのは医療だ。農業よりも影響を受ける。

(つづく)
【取材・文:山本 弘之】

▼関連リンク
・TPP交渉差止・違憲訴訟の会

<プロフィール>
yamada_pr山田 正彦(やまだ・まさひこ)
元農林水産大臣。弁護士。TPP交渉差止・違憲訴訟の会幹事長。1942年、長崎県五島生まれ。早稲田大学卒業。牧場経営などを経て、1993年の初当選以来衆院議員5期。農業者戸別所得補償制度実現に尽力。『輸入食品に日本は潰される』(青萠堂)、『小説 日米食糧戦争 日本が飢える日』(講談社)、『TPP秘密交渉の正体』(竹書房新書)など著書多数。

 
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