小池百合子が三選!都知事選に見る「有権者と政治家、どっちがバカか」~有権者を欺く選挙の手口、この国の選挙はどこへ行くか~(後)
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『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏
今年の都知事選(7月7日投開票)は現職の小池百合子が三選をはたした。幾多の公約違反やカイロ大学卒業が虚偽ではないかと元側近に暴露されるという負の材料があったにもかかわらず、小池はほとんど選挙運動をせず、公務を続けながら楽々当選してしまった。今さらだが、都知事選はこの国最大の直接選挙である。都知事選について考えることは、この国の有権者たちの投票意識を読み取ることができるだけではなく、これから先の選挙制度がどういう方向へ向かうのかを知ることにもなるはずである。(文中敬称略)
※本稿は、24年8月末脱稿の『夏期特集号』の転載記事です。元側近小島氏が告発 小池の学歴詐称疑惑
そして今回の都知事選。立憲民主党と共産党が推薦した蓮舫との一騎打ちになるかと思われた。だが、文藝春秋(5月号)で、小池の元側近で、都民ファーストの会の元事務総長だった小島敏郎が、「私は、学歴詐称工作に加担してしまった」と告白したのである。
小島は、前回の都知事選の直前、学歴問題で悩んでいる小池から呼び出された。小島は、「卒業証書や卒業証明書を見せればいいんじゃないですか。それがあれば通常、それ以上の証明は求められません。それはあるんですよね?」と聞いた。だが小池は、「あるわよ。でも、それで解決しないから困っているのよ」といったという。小島は、「カイロ大学に証明してもらえばいい」と提案した。すると6月9日、カイロ大学学長のモハメド・オスマン・エルコシト氏署名入りの声明文が、駐日エジプト大使館のFacebookに載った。
「私が『カイロ大学に証明して貰えばいい』と提案したのが、6日の夕方。7日の朝に小池さんから文面や宛先について問い合わせのメールがきたのですから、その時点ではカイロ大学とやり取りさえしていないはず。それなのに、9日には学長のサインのついた『声明文』が大使館のFacebookに掲載された。その間、わずか2日。通常、大学の公式声明なら、決裁の手続きもあるだろうし、エジプトとは時差もあるはずなのに……。ただ、『やけに早いな』と思ったものの、当時は深くは考えませんでした」(小島)。
しかし、その後、やはり小池の側近の元ジャーナリストから、「駐日エジプト大使館のFacebookに上げられたカイロ大学声明は、文案を小池さんに頼まれ、私が書いたんです」と聞かされたというのである。小島は、今回小池が出馬して、「小池氏が『カイロ大学卒』と選挙公報に明示すれば、刑事告発します」と週刊文春(4月25日号)で語り、実際、告訴した。都知事選の大きな争点になるかと思われたが、小池は沈黙したままでやり過ごした。
小池の公約検証はナシ 政策論争ナシで56人
今回の選挙のもう1つの重要な争点は、小池が前回掲げた「7つのゼロ」の公約がどこまで達成されたのかであるはずだった。「待機児童・介護離職・残業・都道電柱・満員電車・多摩格差・ペット殺処分」がそれで、かろうじてゼロに近づいたと思われるのはペットの殺処分だけで、満員電車はコロナ禍があってだから、小池の力ではない。私の家の前の細い通りに電柱が立ち並んでいることを見れば、電柱ゼロがいまだ遠いということがわかる。
だが、こうした疑問に答えることなく、小池は公務が忙しいとして候補者たちとの論戦も1回しか行わず、街頭演説もごくわずかだった。蓮舫の鋭い舌鋒も、相手がいないのでは虚空に響くだけだった。政策論争はゼロだったが、今回の都知事選はかつてないほどの候補者(56人)が出馬したことでも話題になった。
そのため選挙後に、選挙を愚弄するような候補者が出てこないように、供託金を300万から3,000万円にしろという声も出たが、貧しくても志をもっている人間が出られなくなるのでは、本末転倒だろう。カネのかかるポスター掲示板をやめてウェブ上に上げ、政見放送もネットで流すようにすれば、こうした不届きな輩が出にくくなる。近い将来、そうした方向へ移行せざるを得ないのではないだろうか。
石丸旋風とSNS 新しい政治文化の予兆
小池は前回から74万票も減らしたが当選した。蓮舫は3位に沈み、選挙当初、東京では無名に近く泡沫候補扱いだった石丸伸二が165万票集めて2位に入ったことがメディアで大きな話題になった。石丸は広島県安芸高田市の市長だった。在職中もYouTubeやXを使って政治家やメディアを批判し、市政では独断専行が過ぎると批判されていたようだが、その手法を都知事選にも持ち込んだ。
山腰修三慶応大学法学部教授は朝日新聞(8月9日)の「メディア批評」で石丸旋風をこう分析している。
「石丸氏は市長時代に政治家やメディアを批判する様子がSNSで話題となり、知名度を高めた。ネットにはもともと、相手を言い負かすことを正義とみなす『論破』の文化があり、SNSユーザーの共感を呼んだというわけだ。問題は、政治には非寛容的で排他的なSNS的コミュニケーションが不可欠で、かつ有効であるという考え方が受け入れられ、広がっていく点にある(中略)。
こうした非寛容性や排他性は、石丸陣営とその支持者の間のみの現象とは限らないことがわかる。対立陣営の支持者たちのSNSアカウントの一部に見られた石丸氏やその支持者を全否定するような発言もまた『論破』と同種の非寛容性をもっている。無論、蓮舫氏に向けられたSNS上のバッシングも同類であり、あるいは小池百合子氏の街頭演説をヤジで妨害するふるまいは、こうした文化が現実世界を侵食し始めている兆候ともいえよう。それぞれの陣営の支持者が互いにバッシングし合うというSNSの構図は、立場の異なる他者の声に耳を傾けない政治文化の今後の進展を予言しているようでもある」
私見だが、石丸が集めた無党派層の票は、小池も嫌だが耳障りに絶叫する蓮舫も嫌だという若者たちが“逃げ場”として投じたので、石丸の人物や政策に賛同したものではないと考える。従って、石丸にとっては次の選挙が真価を問われることになるはずだ。
安野貴博が示した選挙とネットの可能性
歴代都知事選のなかでも特筆されるであろう無内容な選挙戦だったが、唯一、これからの選挙がこう変わっていくのではないかということを示唆してくれたのが、15万票超集め5位に入ったAIエンジニアの安野貴博だった。ネット版の東京新聞(7月14日)はこう報じている。
「早稲田大マニフェスト研究所は『公約が都民の声を吸収しながらアップデートされる点が面白い』と評価。都知事選の候補者9人の公約を検証し、安野さんの公約を100点満点で50点と最高得点を付けた。小池百合子知事(71)の公約は34点で2位だった。Windows98などの開発に携わってきたソフトウエアエンジニアの中島聡さんは『GitHubはネット掲示板やSNSと異なり、「どうすれば仕事の生産性を上げられるか」という視点で進化を遂げてきたサービスで政策議論に使うという発想は斬新だ』と評価する。『AIによる意見集約も3年前の技術だったら無理だった。GPT-3の登場で可能になったアプローチを使って、政治に幅広い層の声を届ける仕組みをつくろうとしている』と期待を込める」。
小池をめぐる数々の疑惑 東京都庁は利権の巣窟
さて、3選をはたした小池都知事だが、任期を全うできるかどうか予断を許さない難問が山積し、途中で辞任もあり得ると、私は考えている。なかでも、週刊新潮(7月11日号)が報じた三井不動産との“癒着”問題は深刻である。発端は「しんぶん赤旗」(6月16日付)だったが、都市整備局(旧・都市計画局)元局長や同局元参事ら12人もが三井不動産に、同局元所長ら2人が三井不動産レジデンシャルに天下っていたというのである。
神宮外苑の再開発計画や、小池がぶち上げた築地市場跡地の再開発も三井不動産が中心になって動いている。「東京都はすごい勢いで土地や財産を三井不動産に差し出しているようなものです」(原田あきら都議)「三井不動産は都庁OBを利用して都政をコントロールしようとしていると考えるのが当然です」(全国市民オンブズマン連絡会議幹事の清水勉弁護士)。
東京都庁は利権の巣窟だと話すのは舛添要一元都知事である(サンデー毎日7月14日号)。
「メディアの深掘りが足りない。問題の背景に何があるのか。発端は東京五輪の競技場や秩父宮ラグビー場建替え問題だったが、その間いろいろな利権が入ってきて、高層ビル建設、樹木伐採計画になった。東京というのは、ある意味利権の巣窟だ。私は知事をやっていたから、あれはこの利権で動いたなというのが全部わかる。その利権にちょっとでも食い込んで改革しようとすると、後ろから刺されることもある」。
小池には兄がいる。週刊文春(7月18日号)が「小池百合子3歳上実兄がヤクザ相手に7.5億円中東投資トラブル動画」と報じている。これも彼女の足を引っ張る要因の1つになるかもしれない。
政策論争なき日本の選挙 そのツケは有権者が払う
大前研一がプレジデント(8月16日号)で今回の都知事選について、「都民の政策への無関心さは相変わらずだ」と嘆いているが、これに限らず、衆参選挙でも自民党の総裁選でさえも「政策論争」を戦わせることなどほとんどない。
小泉純一郎が首相だったとき、衆院予算委員会で、公約で国債発行額を30兆円以内に抑えるとしていたのに、それを守れなくなったのではないかと追及されて、「この程度の約束を守れなかったのは大したことではない」と言い放った。
この程度の有権者にしてこの程度の政治家。大地震が迫り、戦争に巻き込まれる可能性も高くなっている。この国の未来はまったく明るくないということだけは、残念ながら間違いないようである。
(了)
<プロフィール>
元木昌彦(もとき・まさひこ)
『週刊現代』元編集長。1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に退社後、市民メディア「オーマイニュース」に編集長・社長として携わるほか、上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。日本インターネット報道協会代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)など。関連記事
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